上原浩治が大学時に見せた衝撃投球。敵将は「とんでもない選手になる」 (2ページ目)

  • 安倍昌彦●文 text by Abe Masahiko
  • photo by Kyodo News

 一方の上原だが、大学当時の印象はじつに"軽い"というか、素人っぽく見えていた。軽快な足どりでダグアウトからマウンドに駆けつけると、たいして念入りに足元をならすわけでもなく、ピョンピョンと飛び跳ねるように投げ始めたから驚いた。そしてテンポのよさ。まさに「ちぎっては投げ」である。

 軸足にためてとか、体重移動をしっかりとか......もしかしたらそんな"能書き"など、いっさい考えていなかったのかもしれない。

 めっぽう肩が強く、全身バネのような外野手が、いきなり「投げてこい!」と言われて、とりあえずマウンドに上がったような、そんな印象だった。

 腕の振りは強烈に速かったが、上体投げというか、重心の高いフォームで、投げ込むゾーンも高い。「こりゃ、いつかやられるな......」と思っていたのだが、まったく点を取られる気配がない。結局、試合は延長10回、1-0で大阪体育大が勝利した。なにより印象に残っているのが、試合後の九州共立大の仲里清監督のコメントだ。

「あの上原っていうピッチャー、あれね、とんでもないピッチャーになりますよ。ボールを投げる瞬間、指先でボールを切る『バチッ!』という音がベンチまで聞こえてくるんですから。あんなピッチャー、そうそういるもんじゃありません」

 愛弟子・山村の快投よりも、ひたすら上原を称賛する仲里監督。興奮で上気した仲里監督の表情は、まるでとんでもないものを見てしまった子どものようだった。

 あの時、敵将を虜にした衝撃のピッチングは、プロの世界でも遺憾なく発揮された。以前、あるメジャー関係者がこんなことを言っていた。

「上原がメジャーに挑戦したのは34歳の時。もし、もっと早い段階でメジャーに行っていれば、サイ・ヤング賞も狙えるような投手になっていたんじゃないかなと思うんです。メジャーに挑戦した時は、体がボロボロでしたから......。それでも時間をかけてしっかりメンテナンスして、あれだけの活躍ができたわけですからね。

 ボールだけを見れば松坂大輔の方がすごいと思います。でもピッチングのすごさは上原の方が断然上。コントロールミスがほとんどないですし、ボールも表示以上に速い。ほんと20代でメジャーに行っていたらどうなっていたのかなって......。ピッチングの完成度という点では、メジャーに挑戦した日本人では上原がダントツですね」

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