斉藤和巳が松坂世代に抱いたジェラシー「20勝してもまだ足りない」 (4ページ目)

  • 元永知宏●取材・文 text by Motonaga Tomohiro
  • photo by Kyodo News

【先輩相手でも自分から口を出す】

 投手陣のリーダー的な存在になってから、斉藤は先輩にも後輩にも積極的に関わるようになっていく。

 杉内が言う。

「和巳さんは背中で引っ張るタイプじゃないです。どんどん自分から『ああしよう、こうしよう』と口を出してくる。相手が先輩でも裏方さんでも、ガンガンいく。時には言い合いになることもあったように思います」

 個性派揃いの投手陣をまとめるには、普通のリーダーシップでは足りなかったのかもしれない。斉藤の周囲を「巻き込む力」によって、投手陣のまとまりはより強いものになっていった。

 感情だけで人は動かせない。論理立てて話すことで、賛同者を増やしていった。

「いろいろなことを勉強したんじゃないですか。すごかったです。やっぱり尊敬できる先輩でした。ランニングの時にはよく競争もしましたけど、ストライドが長くてうらやましかった。あの体格を自在に使いこなせれば怖いものはないでしょうね。ピッチャーとして、理想的な体型をしていますから」

【投げる試合は全部勝とうとした】

 杉内が斉藤からから学んだのは、技術よりも精神的な部分だった。

「技術面ではマネできないし、マネしようとも思わなかったけど、精神面は勉強になりました。気持ちの部分は、ものすごく参考になりましたね。

 1年間ローテーションを守ったら、25、26試合は先発する機会がある。普通のピッチャーなら、その中で10勝とか15勝しようと考えるんです。ということは、10敗くらいはしてしまう計算になります。だけど、和巳さんは、全部の試合を勝とうとした。負けを想定することを拒否している。『負けてもいい』と考えるのが嫌な性格なんでしょうね。

 そういう話を和巳さんから聞いて、『オレも全部勝つつもりで投げよう』と思いました。実際には、なかなかできることではありませんけど」

 長いシーズンを戦っていれば、勝つこともあれば負けることもある。誰かのミスで勝利が消えることも珍しくない。時には、割り切りが必要な場合もある。

「和巳さんはそれを許さなかった。負けることを絶対に認めない気持ちの強さがありました。もしかしたら、そういう気持ちが強かったから、ピッチャーとしては短命だったのかもしれない。でも、あれこそが理想です。僕には、和巳さんに憧れる気持ち、尊敬があります」

 2018年限りで現役を引退した杉内はプロ17年間で通算142勝をマークした。2003年にホークスでローテーションを組んだ投手の誰よりも多くの勝ち星を稼いだ。彼にとって、斉藤和巳とはどんな存在だったのか。

「もちろんライバルですよ。いい先輩だったけど、ライバルでもありました。ピッチングスタイルはまったく違いますけどね」

 斉藤が先頭を走り、その背中を杉内と和田、新垣が追いかけた。2003年に構成されたホークス先発陣が長く日本プロ野球を牽引することになる。その源は、斉藤の松坂世代へのジェラシーだった。

(つづく)

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