大瀬良大地がようやく本格化。恩師と積み重ねた大学4年間の研鑽 (3ページ目)

  • 安倍昌彦●文 text by Abe Masahiko
  • 西田泰輔●写真 photo by Nishida Taisuke

「大瀬良は1年目から10勝すると思います」

 会場はドッと沸き、ファンたちは満面の笑みを浮かべている。

「しかし、10敗すると思います」

 その瞬間、会場は一瞬にして静まりかえった。「なんの根拠があって言っとるんじゃ!」という声が聞こえてきそうなぐらい殺気に満ちていた。

「大瀬良のボール受けてますんで、僕」

 少し偉そうな言い方だが、大瀬良の球を受け止めた左手がすべてを知っていた。だから、迷うことなく「10敗する」と言えた。

 大瀬良の球を受けた正直な感想は、ベルトより高いゾーンのスピードと破壊力は「菅野智之(巨人)」に匹敵するが、ベルトより低いゾーンのボールが弱かった。

「あー、やっぱりなぁ。やっぱりそうでしょう」

 納得しながら、悲しそうに同意する仲里監督の表情が忘れられない。

 スライダー、フォークなど、変化球のキレやコントロールは悪くない。高めの剛球を駆使しながら先発で投げれば、ある程度抑えることはできる。しかし、低めの球に威力がないので痛打を浴びるだろうと......そこから導いた「1010敗」だった。

 実際は10勝7敗だったから、大瀬良の頑張りが上回ったわけだが、それでも予想したとおりの内容だった。

 そしてプロ5年目を迎えた今シーズン。期待していた素質がようやく開花したように見える。学生当時、踏み込む足が着地する前から打者に"胸"を見せていた開きの早いフォームが、今は踏み込んでも胸のマークは見えない。球持ちのいいフォームとなり、打者寄りの位置でリリースできるようになった。その結果、最後の最後まで指にしっかりボールがかかり、低めの速球が別人のように生命力を帯びるようになった。

 大学4年の春、当時187センチ、90キロの大瀬良が、左足を上げた半身の姿勢で踏み込んでいこうとするところを、168センチ、76キロの仲里監督が中腰になって受け止める。そんな練習を何度も何度も繰り返した。大瀬良に体重移動を覚えこませたかった仲里監督の苦労が、ようやく今年、実を結んだ。

 実力とは"継続力"だ。プロの世界で「さすが」と思わせる数字を3年続けて、ようやく"一流"の仲間入りとなる。これからの大瀬良の飛躍をますます期待したい。

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