あの顔にマスクはもったいない。
捕手→投手へ浅尾拓也コンバート秘話 (2ページ目)
たしかに、私のなかでは「二度と受けたくない投手」の1位にランクされている。
「どんな握りで投げてるの?」
聞いてみて驚いた。
「握りですか? いや、べつに。ただ握っているだけですけど......」
グラブのなかのボールを、縫い目とは関係なく、最初に握ったそのままで投げているという。その理由について、成田監督はこう説明する。
「浅尾は高校までキャッチャーでしたから。そういうことに無頓着かもしれないですね。でも、どう見てもピッチャーですよね、あの体型は。肩もウチのチームでいちばん強いし、バネも抜群ですし」
そしてもうひとつ、浅尾がキャッチャーから投手にコンバートした理由を教えてくれた。
「あの顔にマスクを被らせておくのはもったいないでしょ(笑)」
話は変わり、先日行なわれた引退会見。その席で浅尾は、きっぱり「悔いはないです」と言い切った。
その姿を見て、「変わらないなぁ......」と思った。細くつり上がったまゆ毛、澄んだ瞳、ツルッとした細面の顔。いつも"風呂上り"のように、きれいでさっぱりしていた。だが、そんな柔和な表情とは裏腹の決然とした話し方。大学時代とまったく変わらない。
あらためて浅尾の戦績を見た。とくに2009年からの3年間は凄まじい。67試合、72試合、79試合に登板し、ホールドが33、47、45。この数字がどれだけすごいことか、野球に精通している人ほどそのすごさがわかるだろう。
浅尾の仕事は、主に勝ち試合の終盤1イニング。この1イニングがじつに大変であり、深い。
まず、毎日投げるつもりで過ごす日常生活のプレッシャーがすごい。気持ちはいつもフラットでなければならないし、体だって元気でなくてはならない。仮に、マウンドに上がらなくても、肩はつくる。実戦を想定しながら30球ぐらいは投げることになる。
マウンドに上がる時は、いつも緊迫した場面だ。「抑えてくれるはず」という空気のなか、当たり前のように任務を果たす。正直、3年間も続けて、よくこんな過酷な仕事ができたなと思う。
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