もうパンダじゃない。「客寄せ松坂大輔」、熟練の投球にファン大熱狂 (2ページ目)

  • 石田雄太●文 text by Ishida Yuta
  • photo by Kyodo News

 さらに7回、絶対に追加点を与えられないツーアウト満塁の土壇場で、代打の上本博紀を空振り三振に斬って取ったのも、アウトコースのカットボールだった。松坂は言った。

「真っすぐはカットで代用できると思ってるので、今日は右バッター、左バッター、インコースもアウトコースも両方、カットを使っていこうということにしたんです」

 ストレートは少なかったが、カットボールと合わせれば123球のうち67球と、半分以上は真っすぐ系で押し切ったことになる。この試合、ツーシーム系のボールを松坂は1球も投げていない。以前、動くボールについて、松坂がこう話していたことがあった。

「そりゃ、ボールを動かすのは、好きか嫌いかで言えば、嫌いですよ。それは昔から変わりません。でも、それと必要か必要じゃないかというのは別の問題です。今のボールを考えると、抑えるために何をしなきゃいけないかということは昔よりもさらに広げて考えなきゃいけない。その中で動くボールは選択肢のひとつだし、周りの人は力投派から技巧派になったとか言いますけど、そんな意識はない。僕はできることをやろうとしているだけですから......

 ブルペンでボールが暴れてどうしようもない状況からでも、「嫌い」だという動くボールを使わず、抜けがちだったストレートの代わりにカットボールを軸に据えて123球を投げ切った。これが松坂の"引き出し"であり、修正能力の高さなのだ。この日、松坂のピッチングに垣間見えた技は他にもある。

 テンポのよさだ。

 メジャーで投げていたとき、独特の呼吸法を取り入れていたこともあって振りかぶってからの間(ま)が長く、1球あたりの投球間隔が平均で25秒ほどだったこともあった。それがメッツに移った2014年、20秒ほどに短縮され、この日はランナーがいない場面で12秒から15秒の間隔で投げていた。そのことを松坂に訊くと、彼はこう言った。

「そこについては、あえてそうしています。基本的にはよほど自分の意図と違うサインが出ない限りはクビも振らないし、間をあけずにポンポンと投げていくことを意識しているんです。

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