エースとは何か? 菊池×則本の投げ合いで蘇った「11年前の対決」 (3ページ目)

  • 石田雄太●文 text by Ishida Yuta
  • photo by Kyodo News

「僕の中で"エース"はどこまでいっても田中(将大)さんなんです。ルーキーの年にあの記録(シーズン24勝0敗)を見ちゃいましたから、あれはもう人間の成せる業(わざ)じゃないでしょ。勝ち続ける中でいつも通りの投球をして、また勝つという精神力は、なかなか持てるものじゃないし、今年はとくに岸(孝之)さんや美馬(学)さんの状態もよかった。僕もそういう安定した投球をしたいんですけど、なかなかできてないので、エースなんてとてもとても......僕はジョーカーでいいんです(笑)」

 一方の菊池はこんな話をしていた。

「高校時代、よく言われました。『マウンドというのは世界一、小さい山だ。だけど世界一、登るのが難しい山だ』と......ホント、その通りだと思います。だから人の嫌がることを進んでやるとか、チームメイトを信頼して感謝するとか、そういうことができなければとても登れない山だと思うんです。そうやって登った山ですから、簡単には降りたくありません。最後まで投げ切りたい。ゲームセットの瞬間をマウンドで迎えられたときって、ピッチャーをやっていて本当によかったと思える瞬間ですからね」

 菊池と則本が投げ合う、ライオンズ対イーグルスの一戦、試合が始まった。

 先にマウンドへ上がった菊池は、スパイク6足分を測って、その先に踵でラインを引いた。今シーズンの成績は16勝6敗、防御率は1.97。とりわけイーグルス戦は8戦8勝、防御率0.82と、菊池はイーグルスに対して絶対的な自信を持っていた。それでもCSは菊池にとって初めての舞台とあって、立ち上がりが不安視されていたのだが、その1回、先頭の茂木栄五郎に対し、インコースを狙ったストレートがやや甘く入ったところをいきなりレフト前へ運ばれてしまった。2番の藤田一也に送りバントを決められ、ワンアウト2塁。ここで3番のカルロス・ペゲーロ、4番のゼローズ・ウィーラーを迎える。マウンドの菊池は、こう考えていた。

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