2015.12.20

【根本陸夫伝】
日本シリーズのたびに自腹で300万円分のチケットを買った男

  • 高橋安幸●文 text by Takahashi Yasuyuki
  • photo by Kyodo News

 いかに「オヤジ」と慕う根本の教えでも、大田にはできなかった。10円で3分話せる公衆電話を使う時代から携帯電話を使う時代に移り変わっても、性格上、無理だった。嫌いな人にも電話できる人間が出世するのだろう、と気づいたのはずっと後のことだった。

最近になって心に響いた根本陸夫の言葉

 では、根本は、嫌いな人にも電話できるような人間だったから、全国規模で広がる人脈を持てたのだろうか。大田によれば、それは違うという。あくまでも仕事のため、あえて電話をかけるようにしていただけで、素の性格は大田に似ているところがあった。つまり組織における出世など頭になく、むしろ、仕事には直接結びつかない人間関係を大事にした。そのため根本は西武時代に一度、大田にボヤいたことがった。

「タク、オレはね、日本シリーズのたびに出費がかさむんだよ」
「なんでですか?」
「いやぁ、キップ代がな、300万円かかるんだよな」
「そんなもん、根本さん、招待するのも仕事のうちじゃないですか。球団の経費から出しゃいいじゃないですか。だいたい管理部長なんだから」
「いや、オレはそれをしない。全部、自前なんだ」

 公私をきっちりと区別し、球団には関係なく、プロ野球最高の試合に数多くの関係者や知人を招待する。そのために自腹を切る金額が桁違いだったことに驚かされるが、この努力が根本の財産になったのみならず、人脈の一端になったはず、と大田は推測する。

「すごかったね、公私でけじめつけるのが。10円で電話するのが"公"なら、招待するのは"私"なんだね。だから、この人、違うんだって思った。普通じゃないんだなって」