井川慶の野球人生を変えた「突然のチェンジアップ」 (3ページ目)

 井川のボールが突然変わったのが、3年目のオフです。当時、シーズンが終わると高知県で黒潮リーグという二軍中心の教育リーグのようなものが行なわれていたのですが、そこで井川は一軍でも活躍していた立川隆史さん()や福浦和也さん()のいるロッテ打線相手にほぼストレートだけで終盤まで0点に抑えるピッチングをしたんです。ボールの回転、威力とも以前とは比べものにならないぐらい良くなっていて、おそらくチェンジアップを覚えたのもこの頃だったと思います。
※立川隆史…拓大広陵高から93年ドラフト2位でロッテに入団。「和製大砲」と期待され、4番を任されることもあった。04年のシーズン途中に阪神に移籍し、05年に現役を引退。
※福浦和也…習志野高から93年ドラフト7位でロッテに入団。投手として入団するも、肩を痛め半年で打者に転向。入団4年目から頭角を現し、01年には首位打者を獲得した。

 そのチェンジアップがすごいのひと言でした。球の回転はストレートとまったく一緒なのに、シンカーのように少し曲がりながら落ちていく。先輩の広澤克実さん()も「アイツのチェンジアップは真っすぐとまったく同じ回転だから、見極めがつかない。このチェンジアップは井川しか投げられない」と絶賛していました。間違いなく、井川の野球人生を開花させた球種でした。
※広澤克実…明治大から84年ドラフト1位でヤクルトに入団。ヤクルトの主砲として活躍し、91、93年と2度打点王に輝く。その後、巨人、阪神でもプレイ。通算306本塁打を記録した。

 ただ、「どうやって投げているの?」と聞くと、「わかんね。こうやって投げているだけ」と、たまたま投げられるようになったと言っていました。本人も予想していなかったらいしいのですが、私は彼の強靭な下半身が生み出したと思っています。下半身がしっかりすることでリリースポイントが定まり、腕の振りも速くなる。あれだけ思い切って腕を振れるから、ストレートと同じ回転のボールが行くんです。特に、2003年は20勝をマークし、18年ぶりのリーグ優勝の立役者となりました。あの年のチェンジアップは本当に凄かった。あのピッチングがあったからこそ、ヤンキースもあれだけの大金を支払ったのだと思いますよ。

 アメリカでは思うような結果を残せず、オリックスに戻ってからもこれといった活躍はしていませんが、何とかしてもうひと花咲かせてほしいです。僕たちの同級生である五十嵐亮太(ソフトバンク)も今年活躍しましたし、井川だってまだまだやれる。たとえNPBでできなくなっても、1カ月1万円で過ごせる男ですから、どこに行っても生活できるはずです。とにかく、大好きな野球を思う存分楽しんでほしいですね。

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