22歳の挑戦。山田哲人、シーズン193安打の舞台裏 (5ページ目)

  • 島村誠也●文 text by Shimamura Seiya
  • 小池義弘●写真 photo by Koike Yoshihiro

 杉村コーチはこの結果に「ウチが残り2試合で広島が1試合だから、これで頭ひとつ抜けたね」と、安堵の表情を浮かべた。

「22歳にしてすごい精神力を持っている。2本目のヒットは初球打ちで、積極性も戻ってきた。積み重ねてきた努力を信じられる力を持っているんだね。8月終盤にも大きなスランプになりそうな時期があったんだけど、5打数0安打に終わった翌日の試合で、前田健太(広島)から3安打して持ち直したことがあった。あの時は、本当に凄いヤツだと思ったけど、今回その時のことを思い出したよね」(杉村コーチ)

 飯原は、山田と同じで開幕から早出のティーバッティングを毎日欠かさず続けたひとりだ。途中で選手は何人か入れ替わったが、飯原と山田の顔を見ない日はなかった。飯原は言う。

「お互い最後までよく続けたと思います。彼の練習する姿は、僕にとっても刺激になりました。アイツはまだ若いのに、練習に対する意識の高さに驚かされました。もともとプロでやれる力はあったと思いますが、その力を発揮させるのは練習ですから。僕も若い時に、彼のように高い意識を持って練習をしていれば……見ていてそう思います」

 10月6日、神宮球場、シーズン最後のDeNA2連戦の初戦。山田はこの試合ですべてのことを一気に解決してしまった。第1打席にセンター前ヒットを放つと、2打席目はセンターフライに倒れたのだが、この時、山田は久しぶりの手応えを感じていたという。

「2打席目のセンターフライはインコースのボールに詰まったんですけど、調子のいい時の感覚があって、今日はいけるかなと思いました」

 3打席目に二塁打を放つと、4打席目はバットを折りながらも「当たりはよくなかったけど、気持ちで持っていきました」と、ショートの頭を越えるヒット。これが今シーズン191本目の安打となり、藤村冨美男の記録に並んだ。そして5打席目、一死満塁でカウントは3ボール。山口俊のこれまでの投球内容からすれば、押し出しもあるかなと思われたのだが……。

「小川監督から『3ボールでも打っていいよ』と言われていましたので。空振りしてもいいと思ってフルスイングしました。打った瞬間、入ると思いました。(ベースを周る時は)あまりはしゃがない方がいいかなと思って、とにかく嬉しいという気持ちだけで走りました」

 この試合4本目となる安打はレフトスタンドに突き刺さる逆転満塁ホームランとなった。タイ記録達成から1時間もしないうちに新記録を達成した山田に、凄いとか驚いたとかを通り越し、「恐ろしさ」を感じてしまった。

5 / 6

厳選ピックアップ

キーワード

このページのトップに戻る