ソフトバンク・五十嵐亮太、絶好調の陰に「熟練の技」 (2ページ目)

  • 田尻耕太郎●文 text by Tajiri Kotaro
  • 繁昌良司●写真 photo by Hanjo Ryoji

 ただ、若い頃は「あとはボールに聞いてくれという感じ」(五十嵐)の投手だった。それから歳を重ね、ベテランの域に達した五十嵐は、その当時と変わらぬ剛速球を投げつつ、実にクレバーな投球術で打者と対峙(たいじ)しているのだ。「常にいいものを求めている」と語る五十嵐だが、今年の夏、それがひとつのカタチとなって表れた。

 ある日、プロ野球取材歴20年以上のカメラマンが、「最近、五十嵐の投球が撮りづらくなった」と困った顔を浮かべていた。カメラマン曰く、「1球ごとに投げるタイミングが微妙に違う」のだという。さらに、こう続けた。

「カメラマンは投手のリリースポイントを狙うんだけど、撮りづらい投手ほどいいピッチャーであるケースが多い。おそらくバッターもタイミングを合わせづらいんじゃないかな」

 この話を五十嵐に伝えると、「それは嬉しいですね」とにっこり。そして、7月5日の楽天戦をきっかけに、1球ごとに足の上げ方など、フォームを微妙に変えているのだと教えてくれた。楽天戦は3点リードの8回から登板したが、2本のヒットと四球であっという間に無死満塁のピンチを招いてしまった。

 一発逆転の大ピンチで迎えた打者はジョン・ボウカー。まずはナックルカーブを3球続け、1ボール2ストライクと簡単に追い込んだ。決め球には自慢の真っすぐを選択。だが、150キロ超の球を3球続けてファウルにされ、目先を変えるしかないとナックルカーブを投じるも、またカットで粘られた。そして8球目――この時、五十嵐の頭の中であることがひらめいたという。

「何を投げてもダメ。正直、追い込まれていました。余裕なんてどこにもなかった。だけど、ふと思いついたんです。試すというより、もう自分にはこれしかない、という気持ちでした」

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