巨人・松井秀喜臨時コーチの忙しくて楽しい1日 (2ページ目)

  • 島村誠也●文 text by Shimamura Seiya
  • 小池義弘●写真 photo by Koike Yoshihiro

 キャンプ2日目に坂本勇人の特打で111球を投げた時はこれだ。

『ふたりだけの濃密な時間だった。巨人で栄光を築いた男と、これからの巨人を担う男。前日に亀井に95球を投げ込んだ影響か、制球は少し荒れ気味だった』(2月3日付 日刊スポーツ)

 また、菅野智之のブルペンで松井臨時コーチが打席に立てば、『超一流打者のオーラを感じながら、気後れせず21球を内角に投げ込んだ。未知の感覚に抜群の制球力を誇る菅野でも、珍しく球がばらつく場面もあった』(2月5日付 日刊スポーツ)と綴られ、大田の特打で投げた際には、『師弟コンビ、居残り86球。松井臨時コーチ、炎の4連投で大田のバットを2本へし折る力投』(2月5日付 スポーツ報知)となる。

 松井を取り囲むメディアの様子や記事を見ると、メジャーでの現役時代を思い出してしまう。普段からメディアの多いヤンキースでも、松井の周辺だけは異様な空間で、それを苦々しく見ている人も少なからずいた。今回のキャンプでも、球団は背番号「55」のユニフォームを用意したが、松井の希望でジャージ姿での指導となったのである。いくら松井本人が選手の練習に支障をきたさないための配慮をしたとしても、つい目立ってしまうのが現実だ。だが、巨人担当記者は次のように松井効果を語る。

「選手たちとはいい雰囲気の中でやっていますよ。大田や横川といった若い選手にも積極的に声をかけていますし、新入団の片岡治大にも打撃指導をするなど、若手、ベテラン関係なく接しています。それに、坂本や長野(久義)といった松井と一緒にプレイしていない選手は、『ああ、松井さんだ』と羨望の眼差しで見ています。緊張感の中にも、明るさがあります。いい意味で選手たちは充実したキャンプを送っていると思います」

 キャンプ3日目、松井臨時コーチは長野、矢野謙次、新外国人のアンダーソンらの外野陣に220球のノックを行なった。3つの空振りと打ち損じ45球に選手たちは楽しげにズッコケ、「バッティング投手は良かったけど、ノックはもうちょっと練習してもらわないと(笑)」と語る高橋由伸。その一幕だけでも、雰囲気の良さが伝わってくる。

 キャンプ初の休日となった2月5日には、原辰徳監督が「みんな見たいかな。やるなら天気のいい時だな」と、松井臨時コーチがフリー打撃を行なうことを示唆。松井臨時コーチも「打つのなら、こっそり万全の準備をしてからやりたいと思います」と前向きに発言。松井臨時コーチの行動を見ていると、何を教えるというよりは、存在感で選手のモチベーションを上げているといった方がピッタリくる。これも新たなコーチの形なのかもしれない。

 ちなみに、巨人の臨時コーチは12日まで。その後、アメリカ・フロリダ州タンパに移動し、今度はヤンキースの臨時コーチを務める予定だ。そこには、イチローがいて、黒田博樹がいて、田中将大もいる。松井臨時コーチの忙しい日々は、まだまだ終わらないのである。

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