【プロ野球】目指すはエースで4番。大谷翔平がいま最優先すべきことは何か? (4ページ目)

  • 石田雄太●文 text by Ishida Yuta

 キャッチボールを終えると、大谷は再びメイングラウンドに移動して、野手組の中で投内連係のノックを受けようとした。しかし、メニュー表の見方がわからない大谷は、どこに入っていいのかわからず、右往左往。結局、このメニューは見学するだけで終わってしまった。その直後、3カ所での内野ノックでようやくセカンドに入ったのだが、首脳陣からは突き指を防ぐための片手捕りを指示されていた。確かにこれはピッチャーとしての大谷を気遣っての配慮なのだろうが、これでは野手組にとって、ひとりだけ特別な指示を出される大谷は、“お客さん”になってしまう。同時に投手陣にとっても、時折やってきていつの間にかいなくなる大谷は、いつまでも“お客さん”だろう。練習メニューも流れの中で消化することができなくなってしまい、気忙しい中、ピッチャーの練習と野手の練習を、両方、消化することだけに追われているように見えてならなかった。一軍がキャンプを張る名護を抜けて国頭にやってきた栗山監督は、「マック(金子誠)の様子を見に来たんだよ」と言いながらも、大谷のことが気になって仕方がないといった風だった。

「ひとつひとつ、中味の濃い練習をすることが大事。これは絶対にやらなくちゃいけないというメニューなんかないんだと思って、取り組んだメニューをしっかりやることだよね。これができなかった、これは飛ばしちゃったというメニューがあったって全然、構わないんだから」

 栗山監督のこの言葉にこそ、その通りだと頷(うなず)きたくなったものの、第一クールを見る限り残念ながらそうはなっていなかった。午後になると野手組の中でバッティング練習を行なう組に入り、ようやく落ち着いた雰囲気が出てきた。バント、ティーバッティング、フリーバッティングと進む。

 バットを持った大谷もまた、きらめく才能を感じさせる。何と言っても、構えたシルエットが美しい。この立ち姿のオーラは、誰にでも醸(かも)し出せるものではない。初日に関してはタイミングがうまく合わず、差し込まれる場面も目立ったが、二日目には柵越えを連発するなど、大谷はバッターとしても底知れぬスケールは感じさせた。投げたボールも、打ったボールも、その弾道に伸びがある。これが大谷の最大の武器なのだろう。

 まだキャンプは始まったばかり。この段階で、二刀流ができる、できないを論じるのはナンセンスなのだということは重々、承知している。だから第一歩として、投手、野手のメニューを両方消化させようというのは,チームに対しても改めて『大谷は二刀流でいくんだ』という意識を徹底させる上で、意味があったと思う。しかし、ひとつだけ感じたことがある。

 それは、目的と手段を取り違えてはならないということだ。

 大谷が目指すべきは、何年か後、エースとしてマウンドに立ち、4番バッターとして打席に立つということのはずだ。キャンプで、投手陣の練習メニューにも野手陣の練習メニューにも彼の背番号を記載して、二刀流だと騒いでもらうことではない。一日の中で、投手と野手の練習を両方こなすということが目的ではないのだ。今後、ピッチャーとしての練習をしながらバッティングをするのがいいのか、野手としての練習をしながらブルペンに入ってピッチャーの練習をするのがいいのか、はたまた第一クールのように投手と野手の間を行ったり来たりし続けるのがいいのか……。しばらくはそうした試行錯誤が続くだろう。ただ、目的は投手と野手の練習を両方こなすことではない。二刀流のフレーズに流されることなく、腰を据えて、まずは野球選手としての土台を築くことを最優先に考えればいいのではないだろうか。ファイターズは、18歳の大谷翔平を即戦力として考える必要は微塵(みじん)もないのだから――。

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