【プロ野球】日本ハムの強さの秘密。常勝の礎を築いた「7パーセント」のこだわり (4ページ目)

  • 石田雄太●文 text by Ishida Yuta
  • 青山浩次●写真 photo by Aoyama Koji

 他に19歳のキャッチャー、近藤健介も今シーズン、一軍で30試合に出場した。高卒ルーキーのキャッチャーがスターティングラインアップにその名を連ねるのはファイターズで56年ぶりという快挙だったのが、横浜高校出身の近藤は肩も強く、捕ってからの送球も早い。高卒であっても、この3年の間には一軍の戦力として計算できるという評価のもと、ファイターズがドラフト4位で獲得した人材だった。さらに今シーズンのファームでは、帝京高からドラフト2位で獲得した高卒1年目、松本剛をイースタンのゲームでチーム最多の414打席に立たせ、37歳になろうかというショート、金子誠の後継者として育てようと試みている。また去年は、愛工大名電高から入団した1年目の谷口雄也をファームのゲームで積極的に起用し、今年の9月、初めて一軍に昇格させた。すると谷口は9月4日のイーグルス戦、プロ初打席で送りバントをしっかり決め、0-1と1点ビハインドの8回表にはツーアウト1、2塁のピンチで許したライト前ヒットを素早く処理。ライフルの弾道のようなノーバウンドの送球でイーグルスの追加点を阻んで、8回裏の逆転劇を呼び込んだ。20歳の谷口が一軍でのデビュー戦でこれだけ落ち着いたプレイができるのは、ファームでの実戦経験を積んでいるからだろう。高卒2年目の20歳とはいえ、ファイターズの選手の場合、プロでの経験値は侮れないのである。

 それもこれも“7パーセント”という数字をもとに、その予算内で選手を獲得し、獲得した選手に早くから実戦経験を積ませて効率よく育成し、戦力として計算した上で一軍へ送り込むシステムができあがっているからだ。吉村本部長が作り上げたハードに、山田GMというソフトを入れて、栗山監督がそのシステムを使いこなす――これがファイターズの強さの原点だ。今年のドラフト会議ではメジャー行きを公言していた花巻東の大谷翔平を敢えて1位で指名した。ファイターズは、1位に相応しい力がなければ1位で指名しない。今年は豊作だの不作だのと言われるドラフト市場の相場は、いつも一定というわけではないだけに、限られた予算の中でチームを編成することにこだわるファイターズにとって、1位のレベルに達していない選手に1位の投資をすることは許されないのだ。1位レベルの選手が12人に満たない今年のドラフト相場が、クジを外したときに指名順が12番目となるファイターズに大谷1位指名を選択させたのではないだろうか。

 プロでの指導経験のない新監督を迎えた今シーズン。絶対的なエースだったダルビッシュ有がメジャーへ移籍し、ドラフト1位で指名した菅野智之の獲得にも失敗。開幕投手を任せた斎藤佑樹が夏場にはローテーションから外れ、4番を任せた中田翔も打率2割に満たない時期が長く続いた。その上、キャプテンの田中賢介が戦線を離脱。それでもファイターズは、リーグ制覇を成し遂げたのだ。北海道に移って9年、主力の流出を惜しまず、育成選手に手を出すこともなく、ドラフトで獲得した選手をきっちり育て、9年の間に4度の優勝を勝ち取ることができた。それは、“7パーセント”に象徴される計算し尽くされたベースボール・オペレーション・システムが、このチームの中ではじつに効果的に機能しているからに他ならないのである。

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