【プロ野球】寡黙なエース、西武・岸孝之の奥底に眠る「熱」 (2ページ目)

  • 益田佑一●写真 photo by Masuda Yuichi

「野球、面白い?」
「う~ん、まぁ......」

「遊ぶ時間あったら練習するってヤツもいるけど。そうは思わない?」
「ないっす......」

「本気でプロを考えるヤツはやってるよ」
「夜まで残ってやろうとは思わないっすね」

「去年、同じリーグにいた福田(=聡志、東北福祉大→巨人)や松崎(=伸吾、東北福祉大→楽天)を見てるんだから、プロに行くにはあと何があったら......とか」
「そういう見方はしないっすね。それに自分、プロ野球は見ないんで」

 完全に噛み合ってなかった。ホコ先を変えたりもしてみた。

「学校の成績は?」
「成績ですか......。良くもなく悪くもなく、普通ですかね......」

「普通に卒業して、普通に就職して?」
「社会人とかプロで野球をやりたいなっていうのはあります。でも、それがダメだったら、普通でいいなって」

 ここまで来るのに、1時間半かかっていた。

 確かに話さないし、心を開かない。聞き手の引き出し方がヘタだったというのもあるが、あまりにも「語り」の量が少なくて、掲載予定の5ページにはとても至らない。困って、困って、結局、『岸孝之くんへの手紙』という形式をとって、なんとか切り抜けた。

 岸を最初に見たのは、彼が大学2年の時の春のリーグ戦。「東北学院大に快速右腕現る」の報に、球場へと駆けつけた。結局、その日は投げずに、5回が終わった時のグラウンド整備でマウンド付近を均(なら)していた。

 その姿は、竹ぼうきがトンボを持っているようで、細い、薄い、頼りない。だが、第一印象はNGだったのに、ダグアウト横でキャッチボールする彼を見たとき、その腕の振りに目を奪われた。しなやかだけど強い。細長い右手の指すらしなっているように見えるリリースだった。

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