【プロ野球】投高打低時代、チームの浮沈を握るのは『出来のいい2番打者』 (3ページ目)

  • 谷上史朗●文 text by Tanigami Shiro
  • 益田佑一●写真 photo by Masuda Yuichi

 かつて阪急ブレーブスを率いて、黄金期を築いた上田利治氏に2番の役割について聞くと、「2番というのは、技術はもちろん、性格的にも粘っこい選手じゃないといけない。そういう意味では外国人は難しい」と言った。阪急時代に現役大リーガーで話題になったバンプ・ウイルスを福本豊のあとに置いたが、ベンチの思惑、走者との呼吸が合わず、まったく機能しなかった経験があったからだ。さらに上田氏は、「チャンスを広げるのが2番の仕事。ただ、その広げ方はチームの状況、戦力によって変わる」と言う。計15年指揮をとった阪急時代、福本のあとの2番を大熊忠義、蓑田浩二、弓岡啓二郎の3人に任せた。

「大熊はバスターあり、プッシュバントあり、右打ちありで、福本が走るまで待ってから仕事ができる選手。蓑田は福本と同じぐらいの足もあったし、打撃力も高かった。時に1番になり、3番にもなれる2番が最高ですけど、彼はまさにそのタイプの2番でした。弓岡は福本の足が衰えてきたこともあって、確実にバントができて、右打ちなどの小技のできる選手でした。三者三様でしたが、それぞれチャンスを広げられる技術と頭脳を持っていましたね」

 この大熊や弓岡のように、長打力はないが確実にバントができて、エンドランなどの小技にも対応できる選手を2番に置いているのが、大引のオリックス、大島の中日、柴田の阪神、梵の広島。彼らを置くことで、確実にランナーを進めて、チャンを広げたいという監督の意図が見て取れる。

 また上田氏は、95年から5年間指揮をとった日本ハムで小笠原道大を2番に起用した。まさに「超攻撃型2番」だったが、背景には当時の日本ハム投手陣の弱さがあった。

「ある程度の失点を覚悟していたから、前半で勢いに乗って点を取っていかないと勝てないと思っていました。だから、バントは頭になかった。それに小笠原はフルスイングで注目されていたけど、ミート力に長けた選手だった。決め打ちもできるし、走者一塁では一、二塁間に引っ張ってチャンスを広げることができる。稲葉も小笠原と同じく、そうしたバッティングができる。それに加え、選球眼も抜群だし、場合によってはバントもできる。やっぱり適任だと思いますよ」

 まだ、シーズンは始まったばかり。ただ、「今年はこの形で点を取りにいく」というベンチの意図をすでに2番が表現しているチームと、西武や楽天、ロッテ、横浜のようにまだできていないチームに分かれているのは事実だ。長打の期待が多く見込めない中、ここから各チームの2番はいかに機能し、チャンスを広げていけるのか。

「見ている方も、先頭が塁に出たらバントじゃなく、多彩な攻めを見たいはずです。次に何をしてくるのかわからないというのは、相手にとって嫌なもの。お客さんがワクワクするような攻めをするチーム、それに応えることのできる2番がどんどん出てきてほしいし、監督の腕の見せどころでもあるんですよ」(上田氏)

 名将の言葉を頭に置きながら、つなぎ役の働きに注目していきたい。

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