【大谷翔平】投球内容から見る749日ぶりの勝利投手の意味とドジャースが求める「一番打者」としての役割 (2ページ目)
【チームが最も求めているのは「一番打者」としての役割】
二刀流として復活を果たした大谷翔平だが、今現在チームから最も求められているのは「一番打者」として打線をしっかりけん引することだ。8月10日のトロント・ブルージェイズ戦では、ロバーツ監督が珍しく大谷のプレーを厳しく責めることがあった。
この試合、ドジャースは序盤の3対1のリードを守れず、最終的に4対5で逆転負け。9安打に加え13四球をもらい、毎回のようにチャンスを作りながら、今季ワーストとなる16残塁を記録。3度あった満塁の好機も生かせなかった。
特に指摘を受けたのは、1点を追う9回1死満塁の場面。大谷が空振り三振に倒れたことだった。ロバーツ監督は、手厳しかった
「この試合を落とす理由はまったくなかった。相手チームはブルペンの投手を総動員し、何度も追い詰められていた。最後の(大谷の)打席でも三振に終わるとは予想していなかった。あの投手(メーソン・フルーハティ)は速球派ではない。センター方向を意識して打つべきだったが、低めの球を追いかけてしまった。それは絶対に避けなければならない。もちろん相手投手もよい球を投げたかもしれないが、その前に、まるでティーに置かれたような打ちごろの球(82マイルの真ん中のスイーパー)があったのに、前に飛ばせなかったのは痛恨だった」
さらに6回、二盗に成功した直後の場面でも問題を指摘。2死一・二塁で打者フレディ・フリーマンを迎えながら、大谷が三盗を狙って失敗したことについて、「彼の判断だったが、いい野球ではなかった」と批判した。試合後、ロッカールームが開放されると、大谷はいつもならすぐに帰り支度を始めるところだが、この日は自分のロッカーの前の椅子に座り、珍しくしばらくの間、下を向いたまま動かなかった。
よく観察している人なら気づくだろうが、大谷は以前から、2ストライク後にど真ん中の球に反応できず、見逃し三振となる場面があった。今季はすでにその回数が19回にのぼっている。理由は言うまでもなく「狙い球ではなかったから」だろう。どんな打者でも2ストライクからの成績は悪くなる。今季の大谷は2ストライク時の打率.179、出塁率.276、長打率.404。それでも受け身にならず、自分の最大の武器である「遠くに飛ばす打撃」を貫き、16本塁打、8二塁打、4三塁打を放っている。
おそらく大谷が最も気をつけているのは、2ストライクからストライクゾーンを広げてしまい、悪い球に手を出すことだろう。悪い球を振れば振るほど、投手はストライクゾーンに投げる必要がなくなり、ますます苦しくなる。だからこそ、大谷はゾーンぎりぎりの球に意識を集中させている。しかし、その結果として、時にど真ん中の球を見逃してしまう。
MLBデータサイト『ベースボール・サバント』によれば、大谷は今季、2ストライク時に「ど真ん中の球」を144球見ている。そのうち19球で見逃し三振となったが、一方で18本の長打も生み出している。また、2ストライク時には393球のボール球を見ており、そのうち139球にスイングしている。大谷が今後さらに減らしたいのは、この"悪い球"へのスイングにほかならない。
つづく
著者プロフィール
奥田秀樹 (おくだ・ひでき)
1963年、三重県生まれ。関西学院大卒業後、雑誌編集者を経て、フォトジャーナリストとして1990年渡米。NFL、NBA、MLBなどアメリカのスポーツ現場の取材を続け、MLBの取材歴は26年目。幅広い現地野球関係者との人脈を活かした取材網を誇り活動を続けている。全米野球記者協会のメンバーとして20年目、同ロサンゼルス支部での長年の働きを評価され、歴史あるボブ・ハンター賞を受賞している。
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