【大谷翔平】「打席とピッチングは別々に考えています」周囲の不安を一蹴する「二刀流完全復活」への凄みと冷静さ (2ページ目)
【ドジャースが慎重に見極める「投手・大谷」の「今」と「未来」】
しかし、チームの立場はやや異なるように見える。唯一無二の「二刀流」プレーヤーである大谷をどう活用していくか。世界一を目指すチームとして、その価値を最大限に引き出す一方で、極めて慎重な姿勢も見せている。
ロバーツ監督は「今やっていることは、いわば"棚ぼた"のようなもの。二刀流のパフォーマンスはチームにとって加算的な価値がある」と語る。だが、もし大谷がケガをすれば、その影響は投手陣よりもむしろ打線にとって甚大である。そのためチームは、大谷の「今」と「将来」の両面を慎重に見極めながら起用を続けている。
周知のとおり、過去110年間のMLBの歴史のなかで、大谷翔平が挑戦している「本格的な二刀流」を実現した選手は、ベーブ・ルースただひとりだ。ルースはボストン・レッドソックス時代、投手として2度の20勝を挙げ、ア・リーグで最優秀防御率および最多先発を記録したこともある。しかし、その後に移籍したニューヨーク・ヤンキースは、ルースが投手として登板することが打撃の妨げになると判断し、彼を外野手に専念させた。その結果、ルースはその後の3年間でメジャーのシーズン本塁打記録を2度も更新し(27年にさらに1度更新)、ヤンキースも彼の在籍中に4度のワールドシリーズ制覇を果たした。
ドジャースは、現時点では大谷に二刀流を続けさせる方針を変えていない。しかし、その一方で「果たして本当にこのままで大丈夫なのか」という懸念を持って見ているように感じる。
実際、大谷は今季ここまで8試合に先発登板し、防御率2.37、19イニングで25奪三振と安定した成績を残している一方で、その8試合の間の打率は.219と低調であり、特に直近6登板時の打撃成績は24打数3安打と苦戦が続いている。全体としても、二刀流復帰後は三振率が上昇し、打率は20ポイント以上も低下しているのが現実だ。
それでも大谷は、そうした周囲の懸念に対し、「投げているかどうかに関係なく、我慢強く打席を送れるかどうか」と冷静な見方を示している。さらに「基本的には、投げていても投げていなくても、打席とピッチングは別々に考えています。マウンドでやるべきことと、打席でやるべきことは、しっかりすみ分けて切り替えながら取り組みたいと思っています」と語り、両立への自信を強調している。
もちろん本人も、今後さらなる工夫と調整が必要であることは理解している。
「登板間のトレーニングスケジュールは見直したいと考えています。来週以降は球数も増えていくと思うので、トレーナーと相談しながら、全体のボリュームをしっかり考えていきたいと思います」
著者プロフィール
奥田秀樹 (おくだ・ひでき)
1963年、三重県生まれ。関西学院大卒業後、雑誌編集者を経て、フォトジャーナリストとして1990年渡米。NFL、NBA、MLBなどアメリカのスポーツ現場の取材を続け、MLBの取材歴は26年目。幅広い現地野球関係者との人脈を活かした取材網を誇り活動を続けている。全米野球記者協会のメンバーとして20年目、同ロサンゼルス支部での長年の働きを評価され、歴史あるボブ・ハンター賞を受賞している。
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