長引いたMLBのロックアウトに米ベテラン記者も「恥ずかしいこと」。今後に問われる「共闘」と残った課題の解決 (2ページ目)

  • 杉浦大介●文 text by Sugiura Daisuke
  • photo by Yamaguchi Hiroaki/AFLO

 現在、アメリカのスポーツ専門サイト『The Athletic』で健筆を振るう大ベテラン記者、ケン・ローゼンタール氏がそう述べたとおり、「選手会側の勝利」とまで言っていいかは微妙でも、トニー・クラーク専務理事と交渉役のブルース・マイヤー氏を中心とする選手会側が、一定の成果を出したのは間違いない。

 とはいえ、労使問題がようやく解決しても、長期の活動停止で後味の悪さが残ったのは事実である。もちろんMLBはビジネス。オーナー側が出費を減らしたいことも、選手側がよりよい労働条件を望むことも十分に理解できる。だとすれば、両者が納得するまで話し合うのがベストなのだろう。

 ただ、依然として多くの人間がパンデミックに苦しんでいるなかで、「百万長者と億万長者の銭闘」が続いている様はやはり印象が悪かった。ある関係者は「オーナー側は選手会のメンツを潰したがっている」と述べていたが、互いに相手の提案を承諾することを徹底して避けるようなやりとりを見る限り、そんな見方を否定するのも難しかった。

「(ロックアウトは)野球界全体にとって恥ずかしいことだった。本当にいらいらさせられる期間だったし、ファンのことを考えると残念。MLBが新しいファン層を開拓するためには、よりいい"製品"を見せていく必要がある。今後は互いを攻撃し合うのではなく、向上のために両サイドが協力しあってほしい」

 そう語ったローゼンタール記者の落胆も理解できる。2020年には新型コロナウイルスが原因でシーズンは60試合に短縮され、MLBに関わるすべての人間がダメージを受けた。昨季はオールスター、ワールドシリーズともにテレビ視聴率は低調だった。だからといって「人気凋落」と結論づけるべきではないにしても、より明るい未来に向けて、MLBは新しいファンベースの開拓を迫られている。そんな状況下で、"内輪揉め"よりも、やるべきことは他にあったのではないかという考え方もわかる。

 もっとも、ここでやっと決着がつき、希望も見えてきている。新労使締結後、マンフレッド・コミッショナーとクラーク専務理事は、少なくとも表向きは、ともに今後の関係改善に希望を寄せていた。長年、メジャーリーグを見てきたローゼンタール記者は今後に関してこう話している。

「いいニュースがあるとすれば、結局、シーズンのゲームを1試合も失わずに済みそうなことだ。これで、少なくとも5年間は労使面で平和がもたらされる。その間に、フィールド内(プレーの中身)でも、フィールド外(=リーグと選手会の関係)でも、より質のいいものが見られることを願いたい」

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