イチロー、打撃投手はじめました。新ルーティンに込められた深い意味 (3ページ目)

  • ブラッド・レフトン●文 text by Brad Lefton
  • photo by AP/AFLO

 それだけではない。イチローにとって投げ込みは、もうひとつの目的がある。急遽、監督から打撃投手の依頼があるかもしれないということを想定し、その準備も兼ねているというのだ。

 5月下旬、セーフコ・フィールドでの試合中のこと。控えのアンドリュー・ロマインが代打の準備をしに室内のケージにやってると、投げ込みを行なっていたイチローが突然「投げてほしいか?」と声をかけた。そのときの様子をロマインが振り返る。

「殿堂入りするような選手が誘ってくれたんです。誰が断るんですか。喜んで『お願いします』と言いました。将来、子どもや孫に『イチローがケージで投げてくれたことがあるんだよ』って自慢したいですね」

 ロマインはイチローの投げる球について、次のような感想を述べた。

「正直、最初は球が速すぎだと思いました。投げ方がスムーズで、楽に投げているように見えるんだけど、すごいボールがくる。おそらく体の使い方がスムーズだから、彼自身も強く投げている感覚がないのにすごい球がいくのだと思います。

 でも、そのスピードだと打者として確認しなければいけないことができないんです。だから理由を説明して、『もうちょっとゆっくり投げてもらえませんか』と言いました。そしたら僕の言うことをすぐに理解してくれ、ゆっくりしたボールを投げてくれました」

 こうした経緯があり、冒頭のヒューストンでの打撃投手デビューに至ったのだ。

 6月19日のニューヨーク・ヤンキース戦(ヤンキースタジアム)の試合前の早出練習で、イチローの完璧な仕事ぶりを聞いた監督は、イチローに打撃投手を依頼した。

 打撃投手を務めながら、選手として練習もこなす。少なくとも今シーズンいっぱいは、この生活は続くだろう。ある意味、今のイチローは"二刀流"である。

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