2002年7月7日。田中将大が生まれ変わった「七夕の敗戦」のこと (3ページ目)

  • 谷上史朗●文 text by Tanigami Shiro
  • photo by Getty Images

 田中はこのシーンについて、番組の中でこう語っていた。

「中途半端なところで試合を終わらせたのがすごく悔しくて......。自分の、やっぱりできたことをできずに、気持ちの弱さが出たと思うし、(あの試合は)自分が変わる分岐点だったと思います」

 自らの弱さを痛感したと同時に、最後の夏になってしまった3年生に対する申し訳ない気持ち。その後、何度か田中を取材したことがあったが、この試合のことを度々、口にしていた。

 プロ1年目にインタビューしたときも、田中はこう語っていた。

「先輩たちに申し訳ないのと、自分に悔しくて......。でも、あの試合で自分は変わった。あれから負けたくないという気持ちが一段と強くなって、大きく成長していけたと思います」

 たしかに、あの日を境に田中は明らかに変わった。

 新チームでキャプテンになると、それまで以上に厳しく野球に打ち込み、冬場の練習では苦手だったランニングにも率先して取り組んだ。本来、前に出るタイプではなく、プレー中に感情を出すこともなかったが、練習や試合のなかで喜怒哀楽を表現するようになったのもこの頃から。

 たとえば、シートノックにキャッチャーとして入ったときなど、チームメイトに不甲斐ないプレーが出ると、監督より前に厳しい声を飛ばし、空気を引き締めた。

 残念ながら3年の夏も決勝で敗れ全国大会出場は果たせなかったが、勝負のかかった場面で抑えたときには、感情をむき出しで声を張り上げていた。

 また、あの七夕の試合で田中は、初めて人の思いを背負って戦うことを経験したのだと思った。先輩、そして仲間たちの思いだ。

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