もはや次元の違う世界。数字に見る岩隈久志のすごさ (3ページ目)

  • 福島良一●解説 analysis by Fukushima Yoshikazu photo by AFLO

 昨シーズン、岩隈投手の1イニングの球数はメジャー1位の14.12球でした。今後も好投を続けられれば、2年連続でメジャートップとなる可能性も十分にあるでしょう。球数が少ないと、肩やひじへの疲労度も軽くなるので、厳しい夏場でもローテーションを崩すことはありません。チームの監督からすれば、これほどありがたい先発ピッチャーはいないでしょう。

 今シーズンのマリナーズは、エースのフェリックス・ヘルナンデスが「16試合連続7イニング2失点以下」というメジャー新記録を樹立しましたが、岩隈投手の内容も決して負けていません。両エースが長いイニングを投げ、リリーフ陣に休養を与えていることが、投手陣全体の活性化につながっているのではないでしょうか。

 今シーズンの岩隈投手について、個人的に注目しているのは、「勝ち星」と「フォアボール」の数です。現在、岩隈投手は12勝を挙げており、与えたフォアボールの数は13個。両方の数字がほぼ並んでいるのです。もし、フォアボールの数より勝ち星が上回ってシーズンを終えることがあれば、それは驚愕すべき記録だと思います。

 歴史を振り返ると、1893年以降、フォアボールの数より勝ち星が上回ってシーズンを終えた投手(規定投球回数以上)は3人しかいません。ニューヨーク・ジャイアンツのエースとして活躍し、歴代3位の通算373勝を残したクリスティ・マシューソン(1913年=25勝11敗・21与四球、1914年=24勝13敗・23与四球)、ブラックソックス事件の舞台となった1919年のワールドシリーズで世界一に輝いたシンシナティ・レッズのスリム・サリー(1919年=21勝7敗・20与四球)、そしてカンザスシティ・ロイヤルズ時代にサイ・ヤング賞を2度受賞したブレット・セイバーヘイゲン(1994年=14勝4敗・13与四球/当時ニューヨーク・メッツ)です。普通に考えれば、この記録がいかに難しいか、容易に想像できるでしょう。

 近年では、グレッグ・マダッックスとカート・シリングがその偉業に迫りました。「精密機械」と呼ばれたマダックスは、1997年のアトランタ・ブレーブス時代に19勝4敗を挙げて、与えたフォアボールは20個。惜しくも快挙を達成することはできませんでした。一方、シリングは2002年のアリゾナ・ダイヤモンドバックス時代に、「20勝達成と20個目のフォアボール、どっちが早いか?」という話題で盛り上がりました。結果的にシリングは23勝7敗・33与四球という記録でしたが、両者ともそのシーズンは信じられないピッチングを披露していたのを覚えています。2002年以降、このときのような盛り上がりは記憶にないので、ぜひとも岩隈投手にその偉業を達成してほしいと願っています。

プロフィール

  • 福島良一

    福島良一 (ふくしま・よしかず)

    1956年生まれ。千葉県出身。高校2年で渡米して以来、毎年現地でメジャーリーグを観戦し、中央大学卒業後、フリーのスポーツライターに。これまで日刊スポーツ、共同通信社などへの執筆や、NHKのメジャーリーグ中継の解説などで活躍。主な著書に『大リーグ物語』(講談社)、『大リーグ雑学ノート』(ダイヤモンド社)など。■ツイッター(twitter.com/YoshFukushima

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