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【MLB】若い投手に「トミー・ジョン手術」急増中の謎 (2ページ目)

  • 笹田幸嗣●文 text by Sasada Koji
  • photo by Getty Images

 アメリカは高校だけでなく、大学でも金属バットの使用が認められている。そのため打者有利の状況となり、そのことが「投手に負担を与えている」という意見が少なからずある。しかし、ア・リーグのあるスカウトは、「金属バット以外に、トレーニングの進化」を理由に挙げる。

「今は投手のトレーニングが進化し、筋力や体はどんどん強くなっているが、腱や靱帯の強化がそこに追いついていないのだと思う」

 また、ナ・リーグのスカウトは「投手の価値観が変わってきたのでは」と語る。

「最近は、球の速い投手がいい投手という評価基準になっていて、代理人やアマチュア関係者にとっては、お金を生む投手ということにもなる。若くて才能ある投手がスピードに価値観を求めても仕方ないのだが、ここにトミー・ジョン手術が増えている理由の一端があるように感じる」

 こうした状況に、米国スポーツ医学の権威、グレン・フレイジック医師は警鐘を鳴らす。

「常に全力投球すべきではない。プロの投手の本質はスピードガンの表示ではない。走者を出さず、得点を与えないのがいい投手。そこに目を向けるべきだ」

 そして、ここにきて議題に挙がっているのが、「Extra Rest(余分に休みを与える)」という考えだ。つまり、「先発ならば中4日を中5日へ。救援ならば3連投以上はしない」というもの。これについては、オーナーサイド、選手会サイドで真剣な話し合いが必要だと感じるが、以前、ヤンキースのラリー・ロスチャイルド投手コーチは田中将大のローテーションを考える際にこんなことを語っていた。

「メジャー1年目の田中にはなるべく登板間隔を空けることが必要だと思っている。中4日の場合もあるが、間隔を空けられる時は中5日、中6日もある。中4日で投げ続けるようなことはさせたくない」

 太く長く輝いてこそ真のプロフェッショナル。そのために選手自身と野球界、双方に今までの常識にとらわれない「発想の転換」が必要なのかもしれない。

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