2072分の42。イチロー流、ケガをしないための「極意」 (5ページ目)

  • 石田雄太●文 text by Ishida Yuta
  • photo by Getty Images

 日常から、力を抜いて暮らしている。街でも、イチローは力を抜いて歩いているというのだ。そんな高い意識が、いざというとき、肉体を守ってくれる。イチローが以前、SPORTIVAのインタビューに答えて、こう話していたことがあった。

「赤ちゃんがマンションの何階からか落ちて、それでも軽症だったという話を聞いたんです。そういうところにヒントがあるんですよね。赤ちゃんは力の入れようがないけど、大人は落ちたくないとか、ケガをしたくないって、グッと力を入れてしまうじゃないですか。硬いものに対して、硬くなって防御しようという本能が生まれるんだと思いますけど、結局はそれでみんなケガをしてしまう。だから、赤ちゃんみたいに力を抜いていられればと思ったんです。あの話は、僕に大きなヒントを与えてくれたということですね(笑)」

 メジャーでプレイしていれば、グラウンドの上だけではなく、プライベートでも思わぬことが起こる。イチローにも、アクシデントは何度も襲いかかった。そんなとき、心と体と両方に備えがあるかどうかで、そのケガが試合に出られないほどの大事になってしまうかどうかが決まる。

 イチローはケガをしないのではない。ケガで試合に出られないことがないというだけなのだ。

 シーズン中も、体のどこかが痛いとか、擦り傷が膿(う)んだり、青あざがいつまでも消えないなどというのは、決して珍しいことではない。それでも彼は痛いことをおくびにも出さず、平気な顔で試合に出ている。心にも体にも備えがあるおかげで、ケガが大事にならずに済んでいるからだ。
 
 そしてイチローは、余力を残したまま、4000本という節目を走り抜けた。50歳まで現役とか5000本のヒットとか、そんな未来もイチローにかかればあり得ない話ではない――。

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