【MLB】「3番・イチロー」を決断したマリナーズの真の狙いとは? (2ページ目)

  • 小西慶三●文 text by Konishi Keizo
  • 益田佑一●写真 photo by Masuda Yuichi

 フィギンズをしばらく試した後、復調の目が出なければ他の選択肢を考えることになる。その場合は2番に入る予定のアクリーを1番に上げるか、それともイチロー、フィギンズに次いで盗塁が期待できるグティエレスを使うか。最悪の場合は再びイチローをかつての指定席に戻すことがあるかもしれない。30代中盤に差しかかって成績が急降下したフィギンズが復活する可能性は決して高くない。あくまでも「3番・イチロー」はフィギンズ再生プランの副産物であり、公式戦の中盤以降も続くかどうかは不透明だ。

 もちろん単純にイチローが新しい役割にいかに適応するか興味がある。昨年までのスタイルを変えるだけでなく、従来の3番打者像から大きくかけ離れた打撃を見せてくれそうな気がするからだ。フィギンズの30代中盤からのカムバックを疑問視しつつ、不惑が近くなったイチローの前向きな変化を求めるのは矛盾しているかもしれない。ただ、それがイチローというユニークな存在が醸(かも)し出す独特の期待感だろう。

 たとえば2001年、2007年、2009年と3度のシルバースラッガー賞を獲得したとき、それぞれのホームラン数は8本、6本、11本だった。打撃のベストナインに相当する同賞を、例外的に低い長打率にもかかわらず獲得できたのは、圧倒的な安打数とその技術があったからだ。チャンスに長打を打つのがメジャーでのオーソドックスな中心打者のイメージだが、走者を置いた場面でいろんなかたちのヒットを、しかも高確率で期待できる中軸というのも面白い。打順が変わったイチローに何を期待するかと問われたウェッジ監督が、「イチローはこれまでどおりのイチローのままでいてほしい」と言ったように、斬新な3番像を示唆している。

 3番変更がメディアに伝えられた日、イチロー自身も「それぞれの打順でどうあらねばならない、という考えはない。1番の時もそうだったし、それは3番でも(変わらない)」と言った。

 足幅を広げ、右足を地面に擦(す)るようにタイミングをとる。フォロースルーは大きく、バットのグリップに最後まで両手が離れない。昨年までには見られなかったそんなバッティングフォームがキャンプ初日に日米メディアで話題になった。だがその6日後、1度目の紅白戦翌日のフリー打撃ではスタンスを心もち狭め、右足を数センチ浮かすようにしていた。「ゲーム(実戦)ではどうなるか分からない」とキャンプ初日に予告した通り、これから2012年のイチローの基本型を求める戦いが本格化する。

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