無名のエースが夏に覚醒し甲子園、そして中日から6位指名 指揮官が振り返る聖カタリナ・有馬恵叶の奇跡

  • 元永知宏●文 text by Motonaga Tomohiro

聖カタリナ・浮田宏行監督インタビュー(後編)

前編:聖カタリナ・浮田宏行監督はなぜ1年半で甲子園へとたどり着いたのか?はこちら>>

 2024年のドラフト会議で、支配下で指名された選手は69名(育成指名は54名)。そのうち高校生は22名だった。そんななか、身長190センチ、体重79キロという恵まれた体格を持つ聖カタリナ高のエース・有馬恵叶は、中日ドラゴンズから6位指名を受けた。

 高校3年の夏までは全国的にまったくの無名で、昨年秋の愛媛大会では記録員としてベンチに座っていた。そんな選手が、なぜドラフトで指名されるほど成長したのか。

今秋のドラフトで中日から6位指名された有馬恵叶(写真右)と聖カタリナ・浮田宏行監督 photo by Sugino Ichiro今秋のドラフトで中日から6位指名された有馬恵叶(写真右)と聖カタリナ・浮田宏行監督 photo by Sugino Ichiroこの記事に関連する写真を見る

【夏の愛媛大会でエースが覚醒】

 聖カタリナの浮田宏行監督は、「最後の夏、7月まではまったく信用のないピッチャーでした」と笑う。

「前年、オリックスにドラフト2位で指名された河内康介は、私が監督に就任した時点で光るものがありました。でも有馬は、身長こそ190センチあったものの、ピッチャーとしては課題ばかり。チームメイトからもエースだと認められる存在ではありませんでした」

 ただ、冬の練習でのトレーニング量には目を見張るものがあった。有馬は猛練習を積み重ねることで、力を蓄えていった。

「コントロールが悪いのでフォアボールで崩れ、野手のエラーで失点することが多かった。7月まではそんな状態が続きました。だけど、チームにいるピッチャーのなかで誰よりも努力した選手です。だから実績ではなく、その姿勢を認めて背番号1を与えました」

 聖カタリナは昨年につづいてまたしても春季大会で松山学院に敗れ、夏の愛媛大会はノーシードで挑むことになった。

 そんななか、有馬が浮田監督やチームメイトを驚かせるピッチングをしたのが、第2シードの今治西と戦った2回戦(7月20日)だった。

「1回戦はほかのピッチャーが登板し、有馬を今治西にぶつけました。実力では相手のほうが上。思い切って、彼に任せました。トップバッターをフォークで三振させたことで波に乗っていき、終わってみれば9回1失点のピッチング。強豪校にサヨナラ勝ちしたことでチームに勢いがつきました」

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著者プロフィール

  • 元永知宏

    元永知宏 (もとなが・ともひろ)

    1968年、愛媛県生まれ。 立教大学野球部4年時に、23年ぶりの東京六大学リーグ優勝を経験。 大学卒業後、ぴあ、KADOKAWAなど出版社勤務を経て、フリーランスに。著書に『荒木大輔のいた1980年の甲子園』(集英社)、『補欠の力 広陵OBはなぜ卒業後に成長するのか?』(ぴあ)、『近鉄魂とはなんだったのか? 最後の選手会長・礒部公一と探る』(集英社)など多数。2018年から愛媛新聞社が発行する愛媛のスポーツマガジン『E-dge』(エッジ)の創刊編集長

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