スカウトの評価を覆す熱投。近江の二刀流・山田陽翔が繰り上げ出場で見せた投手としての才 (2ページ目)

  • 菊地高弘●文 text by Kikuchi Takahiro
  • photo by Ohtomo Yoshiyuki

 そして、2022年3月20日。山田にとって思いがけず甲子園という大舞台が巡ってきた。センバツに出場予定だった京都国際が、多数のコロナ陽性者が出たため出場辞退。近畿の補欠校だった近江が繰り上がり、大会に出場することになった。

 出場辞退した京都国際に対する質問が飛ぶたびに、山田は申し訳なさそうな表情で「いたたまれない」というフレーズを口にした。「本当に自分たちが戦っていいのか?」という思いが拭い去れないのだろう。

延長13回、165球の熱投

 期せずして7カ月ぶりに甲子園のマウンドに帰ってきた山田は、冒頭のように背筋の立った投球フォームに生まれ変わっていた。高いリリースポイントから放たれる角度のある速球は、最速146キロをマーク。130キロ台半ばで鋭く曲がるカットボールなど、変化球も冴え渡った。長崎日大を相手に延長13回、165球を投げ抜き、6対2で勝利。その投球には、「俺は投手だ!」という強烈な自我が滲んでいるように思えた。

 故障明けの投手に13イニングを完投させる近江の起用法には、是非があるだろう。ただし、省エネを目的としたフォーム改造によって、山田の肩・ヒジへの負担は軽減されていた。完投後のダメージについて聞くと、山田は噛みしめるようにこう語った。

「13回を投げたわりには、全然大丈夫です」

 こだわりの強い「投手」として、いいアピールができたのではないか。そう問うと、山田は複雑そうな表情を浮かべてこう答えた。

「(6回裏の)ピンチの場面で連打を浴びて2点先制されてしまったのは、自分の甘さが出たと思うので。先制点を許さないことを大事にしてきたんですけど、今日は相手に先に点を与えてしまった。そこは今日の反省点です」

 そんな答えからして、投手らしい繊細さが感じとれた。

 試合後、複数のスカウトに山田について聞いてみたが、おおむね「投手・山田」は好評だった。打者としてもタイブレークで決勝タイムリー安打を放っていたが、このセンバツを機に投手としての評価が逆転した格好だ。

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