「離島のハンデ」を乗り越え、センバツ出場。なぜ大島高校は甲子園までたどり着けたのか (4ページ目)

  • 菊地高弘●文・写真 text & photo by Kikuchi Takahiro

 だが、同じ顔ぶれの紅白戦ばかりでは、公式戦特有の緊張感は味わえない。そこで塗木監督は一計を案じた。

「ちゃんとした審判にお願いして紅白戦をするんです。じつは島内には鹿児島大会で審判ができる方もいて、審判のレベルが高いんです。鹿児島市内ならひとりあたり2500円かかるのが、島では同じ料金で4人も来てくださる。公式戦さながらの臨場感を審判がつくってくれるんです」

 島外の名門にも胸を借り、学んできた。鹿児島実の宮下正一監督と親交の深い塗木監督は「鹿実さんとは年2回必ず練習試合を組ませてもらっている」と語る。

「グラウンドに歴史のある学校ならではの緊張感があって、すごくいいんですよ。最初は雰囲気にのまれて力を出せない選手もいるんですが、2試合目くらいからようやく慣れてくる。鹿実のグラウンドでプレーしていれば、公式戦の球場でもラクにプレーできるようになるんです」

【目標は甲子園ベスト8】

 さまざまな工夫でデメリットを克服し、ようやくつかんだ「実力での甲子園」。当然、島民からの期待は大きいが、監督も選手も「プレッシャーはない」と口をそろえる。

 大野はこんな実感を口にした。

「注目されてると言われるんですけど、住んでる場所が遠いから直接の声は聞こえないので。地元の人たちは知ってる人ばかりなので、温かく声をかけてくれますし、もう家族のようなものですから」

 年明けには校内でコロナ感染者が出た影響もあり、年末年始に約3週間もチーム練習ができない不運があった。それでも、今は甲子園ならではのスピーディーな試合進行に対応すべく、「攻守交代20秒」と目標時間を設定して練習に励んでいる。

 塗木監督はこの8年間、選手たちに言い続けてきた言葉がある。

「甲子園ベスト8で通用する野球をしよう」

 センバツの切符を手に入れ、いよいよ目標まで「あと2勝」に迫っている。塗木監督は積年の思いを込め、こう語った。

「周りをどうこう言う前に、自分たちの野球をして甲子園ベスト8を手にすれば地域が盛り上がることにつながる。県大会や九州大会で鹿児島の球場でしたけど、今度は甲子園という知らない場所になる。でも、島でやってきたことをそのまま出したいですね」

 8年前のセンバツは龍谷大平安(京都)を前に2対16の初戦敗退に終わった。今度こそ、奄美大島の力を見せつけてやる──。島民の8年間の思いが結実する瞬間が、少しずつ近づいている。

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