「補欠監督」だからできた仙台育英の大改革。保護者の前で「数値重視」を宣言した (5ページ目)

  • 元永知宏●取材・文 text by Motonaga Tomohiro
  • photo by Sankei Visual

【センバツは「文句なしのベストメンバーで」】

 扉は、誰にでも開かれていなければならない。実戦で切磋琢磨し、いい成績を残した選手に公式戦のチャンスが与えられるべきだと須江は考えている。

「部員全員に扉は開かれていますが、その扉の中に入れる人数は、地方大会では20人、甲子園では18人と決まっています。誰かが入れば、誰かが押し出されることになる。だからこそ透明性がないといけない。どうすれば仙台育英のレギュラーになれるのかを僕は示したかったんです」

 須江は監督就任以来、数値を重視し、結果にこだわってきた。それにより、2019年春のセンバツを除いて、甲子園出場権を手にしてきた。

「結果にこだわることはものすごく大事です。そうしないと、取り組みがぼやけてしまうから。決して勝利至上主義ではないんですが、成果を残すこと、勝利を求めることと正面から向き合わないといけない」

 須江が高校を卒業して20年が経つ。学生コーチとして味わった苦い経験を糧にし、過去の自分を反面教師にしてきた。コンプレックスをバネにしながら、指導者として歩んできた。

「僕のコンプレックスは、まず補欠であったこと。いい選手じゃなかったし、背も低いし......それは今も変わりません。監督になって、チームを優勝させていないこともそうです。僕は、3年間、1000日で全国優勝するという目標を掲げているんですが、まだ達成できていない。このセンバツがタイムリミットです」

 2020年秋の東北大会で優勝したあと、須江は「センバツまでに、10人はメンバーが入れ替わってほしい」と語った。それはチーム内競争の激しさと、秋季大会でユニフォームを着られなかった「補欠」の成長を意味するからだ。

 3月11日に発表されたセンバツの登録メンバー18人の中には、秋にベンチ外だった選手が4人も入った。「文句なしにベストメンバーだと思う。過酷な競争があったからレベルアップできた」と須江は胸を張る。

 補欠の奮起によってチームが強くなることを、"補欠監督"である須江は誰よりもよく知っている。

■元永知宏 著
『補欠のミカタ レギュラーになれなかった甲子園監督の言葉』(徳間書店)
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