進学校の控えから社会人野球の強豪入り。新人賞左腕が急成長した要因 (3ページ目)

  • 菊地高弘●文・写真 text & photo by Kikuchi Takahiro

 ストレートに自信がなければできない攻め方だろう。この日の立ち上がりの球速は130キロ台後半がほとんど。だが、捕手の藤野のミットに収まると「ズドン!」と重低音が響く。片山のストレートは、ホームベース付近でも球威が死なないのだ。

 片山は4回に1点を失った以外はピンチらしいピンチもなく、9回を投げ抜いた。だが、予選リーグでJFE東日本や東京ガスを破って勢いに乗る倉敷オーシャンズは、一筋縄ではいかなかった。Honda自慢の強打線は倉敷オーシャンズ先発のベテラン右腕・矢部佑歩、リリーフした剛腕・廣畑敦也に完封される。

 試合後、会見場に現れた片山は報道陣から「大会通じて結果を残しましたが、自信になりましたか?」と質問を受けた。てっきり首肯すると思ったら、片山は「いえ」と否定して、こう続けた。

「初戦は勝てたので自信になりましたが、今日は負けたので自信にはなっていません」

 この言葉に、今の片山がまとう芯の強さを垣間見たような気がした。

 高校時代の片山は、いつも自信のない投手だった。柔らかな腕の振りなど非凡さも垣間見せており、日立一の中山顕監督は「おまえにはとんでもないポテンシャルが眠っているんだ」と片山を鼓舞し続けた。だが、片山は口では「プロになりたい」と言いつつも、本当の意味で自分自身を信じられていなかった。

「高校時代は中山先生に言わされたというか、ぼや~っとしてたんです」

 そう苦笑交じりに当時を振り返ったこともあった。

甲子園を沸かせた右腕がどん底からV字回復>>

 今の片山は、自分の可能性を信じている。だからこそ、いくら好投しても勝利を得られなかった自分を責めているのだろう。片山の口からは反省の弁ばかりが続いた。

「変化球の精度だったり、立ち上がりの悪さだったり、課題はたくさんあるので。真っすぐは通用する手応えがありましたけど、まだ狙ったところで空振りが取れていません」

 Hondaに加入後は、巨人のリリーフ投手として活躍した木村龍治コーチの指導を受けている。ブルペンで投球練習する際、2球連続でボールが高めに抜けると木村コーチからこんな言葉をかけられたという。

「同じボールが抜けたら、次は抜けないよう何かを変えなさい」

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