千葉の高校野球界の勢力図を変えるか。ゴルフの池田勇太の母校に規格外スラッガー

  • 高木遊●文・写真 text&photo by Takagi Yu

 2年前の春、拓大紅陵などを破り県8強入りするなど、千葉の高校球界に突如として現れた新鋭・千葉学芸。しかも3、4番が1年生ということで、さらなる驚きをもって注目を集めた。

 その4番打者こそ、今秋のドラフト候補に挙がる右のスラッガー・有薗直輝(ありぞの・なおき)だ。大学進学を希望している3番を打つ左の巧打者・板倉颯汰とともに、1年春からチームの中心を担ってきた。

高校通算45本塁打のスラッガー、千葉学芸の有薗直輝高校通算45本塁打のスラッガー、千葉学芸の有薗直輝 有薗は185センチ、94キロの恵まれた体格を生かして、高校通算45本塁打。コロナ禍による練習試合や公式戦が軒並み中止になったことを考えると、その数はかなり多い。それだけに相手のマークは厳しくなり、ほとんどがアウトコース中心の配球で、外野手がフェンス手前で守ることは当たり前の光景になっている。

 昨年秋の千葉大会では、今春のセンバツ大会に出場する専大松戸と準々決勝で対戦し、延長16回の大激戦の末に6対7で敗戦。この試合、有薗は6打数1安打と抑えられた。そのなかでも6打席目のセンターフライに「あの打球がフェンスを越えていれば......勝負強さがなく、警戒されているなかで打てませんでした」と悔やむ。

 その後はアウトコースの球に対して、体を大きく使ってインサイドアウトで打つことに力を注いだ。その効果もあって、秋季大会後の練習試合での本塁打は「ほとんどが逆方向です」と高倉伸介監督も舌を巻く。佐倉リトルシニア時代から素質に惚れ込み、「モノが違います」と言い続けていただけに、有薗の成長に目を細める。

 千葉学芸高校は100年以上の歴史を誇る私立校だが、長らくは東金女子高校などの名称で親しまれた女子校だった。2000年から現校名で共学化し、まずはゴルフ部が池田勇太を輩出するなど台頭。そして野球部も徐々に力をつけてきた。

 なにより学校側のサポートは充実のひと言だ。メイングラウンドの隣にサブグラウンドが2面あるため、100名を超える部員が一斉に練習でき、今春から指導者も7人体制になる予定だ。

 2017年から赴任してきた高倉監督は三重高校、名城大OBで、皇學館高校(三重)の教員時代には女子バドミントン部を高校総体8強に導いた異色の経歴を持つ。競技未経験だからこそ貪欲に研究し、競技を問わず人間性や自立することの大切さを実感。

 千葉学芸の監督となってからは、姿勢や物事の捉え方、野球をする意義を説き、全クラスの学級委員と生徒会長は野球部が務めている。そうした教育や指導のもと、中学の強豪クラブチームの主力選手や軟式野球部に眠る原石の獲得にも力を注ぎ、急成長してきた。

 その強化1期生というべき世代が3年生だった昨年夏、千葉県の独自大会で8強入り。エース右腕の小芝永久(とわ)は、最速146キロのストレートとキレ味鋭いスライダーでプロ志望届を提出するまで成長を遂げ、今春から上武大に進む。

 そして強化2期生にあたるのが有薗たちの世代だ。エース左腕の北田悠斗は専大松戸戦で好投して自信をつけており、創部初の甲子園出場も現実味を帯びている。

甲子園のベンチ入り人数増はなぜ実現できない?>>

 そのなかで有薗は打撃改良に加え、新たに投手にも本格挑戦している。

 昨年秋の大会でも登板する予定だったが、夏の独自大会で負った右足首の捻挫が長引き、登板は回避。それでも県大会1回戦の東海大市原望洋戦で本塁打を打ってしまうあたり「さすが」のひと言だが、投げても140キロ台中盤をマークするなど投手としても高い能力を秘めている。また、三塁の守備も捕球から送球まで器用にこなし、出塁すれば盗塁する走力もある。

 優しい性格でまだあどけなさは残るが、早くから注目されてきただけにスカウトの視線にも「慣れてきました」と頼もしい。

 今年の目標についても「春は関東大会、夏は甲子園」とキッパリ。冬場の鍛錬により「体のキレがよくなりました」と手応えを感じており、対外試合が再開されるのを待ち望んでいる。

 有薗が相手包囲網に屈せず獅子奮迅の活躍を見せた時、千葉の高校球界に新たな歴史が刻まれるかもしれない。

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