履正社と大阪桐蔭の「2強物語」。特別な夏から新章が始まった

  • 谷上史朗●文 text by Tanigami Shiro
  • photo by Kyodo News

大阪桐蔭OBでプロ野球チームを組んでみた>>

「甲子園交流試合」が開幕した8月10日。第2試合で明徳義塾(高知)が鳥取城北にサヨナラ勝ちを収めてからしばらく経った頃、大阪シティ信金スタジアム(旧・舞洲ベースボールスタジアム)では大阪桐蔭と履正社の大一番が始まろうとしていた。

 当初、大阪の代替大会は決勝まで行なう予定だったが、雨の影響により準決勝での打ち切りが決定。その第2試合で"2強対決"が実現したのだ。

夏の大会で21年ぶりに大阪桐蔭に勝利し喜ぶ履正社ナイン夏の大会で21年ぶりに大阪桐蔭に勝利し喜ぶ履正社ナイン 年々、この2強対決が注目されるようになったのは、両チームの実力が拮抗しているのはもちろん、夏の直接対決での結果が広く知られるようになったことも挙げられる。

 春や秋の公式戦ではほぼ互角の戦いを繰り広げている両チームだが、夏に限っていえば1997年の初対決からここまで11勝2敗と大阪桐蔭が圧倒。とくに辻内崇伸(元巨人)、平田良介(中日)の怪物コンビにスーパー1年生の中田翔(日本ハム)が揃った大阪桐蔭が、T--岡田(オリックス)を擁する履正社に勝利した2005年からは11連勝中である。

 以前、この理由について取材したことがある。するとOBたちからは、両校の決定的な違いである寮生活の有無が話題にあがった。

 野球部員が全員同じ寮で生活する大阪桐蔭に対し、履正社は自宅からの通いである。制約の多い寮生活を送っている側からすれば、「通いのヤツらに負けられるか!」といった気持ちが、最後の夏に出るというわけだ。その話を聞き、高校生の心情として大いに納得できたが、取材をしていくなかで感じたのは、寮の有無ではなく、そこでどう過ごしたかということだ。

 同時に、大阪桐蔭との対戦で負けを重ねるなかで、履正社の選手や指導者たちは自分たちのやり方に不安を抱き、迷いが生じているのではないかと......。それを払拭するためにも、履正社にとって必要なものは、夏の結果だと強く思うようになった。

 ところが昨年の夏、履正社は"打倒・大阪桐蔭"を果たすことなく、全国の頂点に立った。祝勝会の席で話をした当時の主将である野口海音(現・大阪ガス)の言葉が今も耳に残っている。

「今回の日本一で履正社の歴史をつくることができたと思います。ただひとつやり残したことは、夏の大阪桐蔭に勝つこと。後輩たちには来年、夏の大阪桐蔭に勝って、甲子園に行ってほしい」

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