冷や汗シーンが連続。「史上最悪の大誤審」前にあった「死闘」 (2ページ目)

  • 菊地高弘●取材・文 text by Kikuchi Takahiro

高校生時代の国府田さん(写真/国府田さん提供)高校生時代の国府田さん(写真/国府田さん提供) ヘルメットが吹き飛ぶほど強烈なタックルを浴びたショートは送球を捕球できず、国府田さんはセーフになる。さらに驚くことに、「加害者」であるはずの国府田さんがショートをじぃーっとにらみつけたのだ。いわゆる「ガンをつける」状態である。

 無死一、二塁となり、3番打者の関叔規(よしのり)さんが送りバントを試みる。ところが、動揺を隠しきれない仁村さんが打球を弾き、無死満塁になる。川口工はこのチャンスを生かし、1点を奪い主導権を握ったのだった。

 40年経った今、国府田さんはこう懺悔する。

「あれ(ショートへのタックル)はえげつなかったと思います。完全に当たりにいっていましたから、ラフプレーでアウトを取られても仕方ない。今になっていろんな人から言われますよ。『あれは今だったら絶対アウトだよ』と。自分でもそうだろうなと思います」

 ただ「アウトになりたくない」という一心だったという。二塁ベースに入ったのが誰かはその時はわからなかったが、「行くしかない」と体ごと突っ込んだ。だが、実は、その二塁に入ったショートとは中学時代からよく知っていた仲だったという。

「彼は同じ地域で野球をやっていましたし、話をしたこともありました」

 こちらが「知り合いにガンつけたのですか?」と驚いていると、国府田さんは「あとになって『お前、怖すぎ』と言われました」と苦笑した。誰彼構わずに威圧する40年前の高校球児と、目の前でにこやかに語る温厚な紳士が同一人物とはとても思えなかった。

 死球を受けて仁村さんに詰め寄ろうとしたシーンについて聞くと、国府田さんはあっさりとした口調で「あれはパフォーマンスです」と答えた。

「あんなことは初めてやりました。こういう展開は上尾にしてみれば初めてでしょうし、わざといつもと違う感覚にさせたかったんです。結果的に川口工業にとっては戦闘スイッチが入ったところがあるのかもしれません」

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