死闘を制した佐々木朗希に見た涙「精神的に追い詰められていたんだ」 (2ページ目)

  • 菊地高弘●文 text by Kikuchi Takahiro
  • photo by Kikuchi Takahiro

 四高の攻撃はさらに続く。バントヒットや四球で二死満塁とチャンスを広げた。打席に入るのは、この日ヒットを放つなど佐々木に順応していた2番の高見怜人。菊地は「こいつなら決めてくれる」と信じていた。普段は何を考えているのかわからない変わり者だが、高見は天才的なバットコントロールと勝負強さがあった。

 打席の高見も「そんなに速くは感じないし、練習してきたことをやれば打てるな」と内心考えていた。だが、カウント1-1からのボールを打ち損じ、レフトファウルフライに倒れる。仕留められなかった高見は「自分の力不足」と唇を噛んだ。

 四高の及川優樹監督は「できればこの回に決めたかった」と悔やんだが、流れは四高に傾いた。延長10回裏には、3番・岸田直樹がレフトポール際に大飛球を放つ。「サヨナラだ!」と四高ベンチは沸き立ったが、わずかに切れてファウルに。横山から「いじられキャラであり、愛されキャラ」と評される岸田は、この一打をクラスメイトからも「入っていれば時の人になれたのに」といまだにいじられるという。

 岸田の一打で寝た子を起こしてしまったのか。佐々木は息を吹き返したように10回一死から4者連続三振を奪い、疲れをまったく見せなかった。

 そして延長12回、試合が決まる。

 無死一塁で打席に入った佐々木が、外角の速球を払うようにとらえた。打った瞬間、捕手の横山は「打ち取った」と思ったという。

「低めを引っかけさせてゲッツーを打たせたかったんですけど、少し(ボールが)浮いてしまいました。でも、長い腕と手首だけでとらえた腰の入っていないスイングだったので、『ライトフライだな』と思ったんです。それがどんどん伸びていったので、『なんてやろうだ......』とビックリしました」

 佐々木の打球は、ライトフェンスを余裕で越えていった。この2ラン本塁打で試合は決まった。その裏は3者連続三振。佐々木は12回、194球を投げ抜き、21三振を奪っていた。

 両校が整列して礼を終えたあと、菊地は佐々木に声をかけた。

「お前なら甲子園に行けるから、公立の代表として甲子園に行けよ!」

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