開星・田部隼人の打席に外野4人。
伸びしろ期待の遊撃手に吉報は届くか

  • 井上幸太●文 text by Inoue Kota
  • photo by Inoue Kota

 今から約1年前、中国大会出場がかかった秋季島根大会準決勝でのことだった。身長180センチ台半ばの大柄な右打者が打席に入ろうとした時、内野手(セカンド)のひとりが左翼手付近に移動した。

 二塁がガラ空きになるリスクを取って敷いた"外野4人シフト"。盛り上がりと動揺が混在した異様な雰囲気に球場が包まれるなか、打席へと向かった開星(島根)の田部隼人(たなべ・はやと)は、力むことなくスイングし、密集した守備陣をあしらうようにレフト前に安打を弾き返した。

身長185センチの大型遊撃手の開星・田部隼人身長185センチの大型遊撃手の開星・田部隼人 この"奇策"とも言える守備位置変更を敢行した大社高校の監督である石飛守は、当時の意図と心境をこう語る。

「それまでのデータを見ると、ヒットの多くが引っ張り傾向でした。なので、打たせて網にかけようと考えてシフトを敷きましたが、外野4人で守った1打席目から3打席はすべてレフト前。いいバッターは、どこを守っていても打たれるんだなと思わされました(苦笑)」

 試合は大社が2-0で開星を退けた。そのなかで田部は4打数3安打。敗れたものの、打撃で鮮烈な印象を残した。田部本人は、この試合についてこう振り返る。

「打席に入った時、セカンドがガラ空きなのは見えていたので、最初は『逆方向に打とう』と思っていたんです。でも、インコースを攻められていたので、流すのが難しかった。切り替えて、シフトを意識しすぎずに打った結果がいい方向に出たのかな、と思いますね」

 現在のサイズは185センチ、88キロ。グラウンドで一際目を引く体躯は、間近で見るといっそう迫力を感じる。

 高校でレギュラーを掴んだのは1年秋。直前の夏の甲子園までショートを守っていた杉本涼(現・近大工学部)をサードに押しのけて、ショートを守った。当時の起用について、開星を率いる山内弘和はこう説明する。

「やっぱり田部を"大型ショート"として育てたいという気持ちは強く持っていました。当時から180センチ代のサイズがあって、それでいて手元の器用さ、ハンドリングのうまさがあった。彼の精神面を考慮して、2年生の春夏は杉本をショート、田部をサードで起用しましたけど、上のレベルでもショートを守れる素質はあると思っています」

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