佐々木朗希の「球数問題」に直面する大船渡・國保監督の判断基準は? (3ページ目)

  • 菊地高弘●文 text by Kikuchi Takahiro
  • photo by Kikuchi Takahiro

 佐々木は長いイニングを投げた翌日、肩やヒジなど特定の部位ではなく、「体全身にハリがくる」と言う。この言葉を信用するなら、佐々木がいかにバランスよく体が使えている証拠と言えないだろうか。

 スポーツ科学の研究者である筑波大の川村卓監督に球数制限について聞いた際、こんなことを語っていた。

「私は甲子園に出るチームよりも、地方大会が問題だと考えています。甲子園に出るような強豪は投手の人数も多いし、すでに故障を防ぐために対策を打っている監督が多いからです。ただ、公立校などさほど強くないチームだと、体に痛みを感じても投げざるを得なくなる。たとえおかしな投げ方でも、大黒柱ともなればなかなか代えられませんよね。そんな選手を守る必要があります」

 川村監督は、國保監督の大学時代の恩師でもある。國保監督は佐々木に体の負担が小さいフォームや強度を追求するよう導き、体をチェックするための判断材料を多数用意し、チームとして複数の投手も育成している。盛岡第四戦の194球だけを切り取って見るのではなく、そこに至るまでの日頃の取り組みをふまえて起用法の是非が問われるべきだろう。

 國保監督は迂闊(うかつ)な発言はしない指導者だ。たとえば投手のケアやコンディショニングの話題が込み入ってくると、必ず「私は専門家ではないのでわかりませんが」と断りを入れる。指導者として、無責任な発言はしたくないという哲学があるのだろう。わからないことは「わからない」と言い、選手と一緒に勉強するために「わかる人」を連れてくる。國保監督とはそんな指導者なのだ。

 高校野球の現状に問題がないとは言えない。とくに地方大会の過密日程は、今後検討すべき課題だろう。各チームの良識と裁量に委ねるには難しい面があるからこそ、球数制限の議論がなされているという現実もある。

 そんななか、与えられた枠組みのなかで選手の将来性を守りつつ、勝利を目指すという意味で大船渡の取り組みは理想に近いのではないか。

 もちろん、夏の戦いは続いている。大船渡の夏が終わり、さらに佐々木の才能を潰すことなく甲子園に出場すれば、そのノウハウは大いに注目されるに違いない。そしてそれが全国に広まれば、日本の野球はさらに成長する可能性を秘めている。

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