外務省から高校野球の監督へ。名将に学んだ指導で夏の神奈川に挑む (5ページ目)

  • 清水岳志●文 text by Shimizu Takeshi
  • photo by Sportiva

 神奈川大会を間近に控えたある日の練習で、内野手を集めてセカンド牽制時のサインを決めさせていた。

「去年決めたのに忘れちゃっていて。キャッチャーがサインを出して、ピッチャーがセカンドに投げようとしているのに、ベースには誰もいない。アウトにならなくても、サインプレーがあるだけで走者のリードも変わってくるよと」

 小さな平林の嘆きが続く。

「勝負への執着が薄いというか、こだわりが小さい。こういうチームは勝たないと変わらない。公式戦の1勝、それも夏の1勝が次につながると思うんです」

 外務省時代の経験は、監督になってからも生かされている。外務省では素早い決断力が求められた。すんなり決着すると思われていた案件が一晩で覆ったり、世界の紛争は待ったなしだ。柔軟に対応するためには、常に大きなアンテナを広く張っていなければいけない。

「グラウンドの隅々まで視線を送って、生徒の変化に気づかないといけません。それに外務省時代の僕がそうだったのですが、褒められたら仕事もやりやすいですし、結果も出ることが多かったんです。甘やかすとは違いますが、褒めて選手を伸ばしてあげたいと思います。萎縮しながらやっても楽しくないじゃないですか」

 異色監督の指導を受ける選手たちはどう思っているのか。キャプテンの吉井啓悟が言う。

「監督は選手としっかり向き合ってくれます。外務省を辞めて、自分たちの野球に情熱を費やしてくれているなんて、ありがたいです」

 また2年生の内野祐稀は平林が上溝に異動したことを知り、入学してきた生徒だ。

「私立では試合に出られるかわからなかったし、大学でも通用する野球を教えてくれる監督のいる公立校に行きたかった。田名から上溝にいい監督が来たということを中学の監督が調べてくれて、ここに来ました。選択は間違っていませんでした。平林先生は人脈もあって、私学の強豪校と練習試合を組んでくれる。すごい先生だと思います」

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