高校野球の「ラストゲーム」。補欠でもグラウンドで引退→花道を飾れる (3ページ目)
◆引退試合をきっかけにチームが変わった
このような「ラストゲーム」を企画・運営する塩見直樹は、国学院久我山、木更津中央(現・木更津総合・千葉)などで野球部の指導に携わった経験がある。試合に出られない3年生に戦いの場を用意することになった理由をこう語る。
「夏の大会までの1日だけ、レギュラー選手に替わってメンバー外の3年生に真剣勝負をしてもらいたいと思い、企画しました。選手も親も指導者も、みんなが笑顔になれるイベントにしようと、野球を好きなままでいられるようにと」
昨年は山梨で、帝京三vs山梨学院が企画された。
「山梨学院は3年連続で甲子園を狙うチームで、帝京三は甲子園から遠ざかっていたんですが、不思議なことに、2018年の山梨大会の決勝は、両チームの対戦になりました。
今年3月に両校の監督と食事をする機会があって、帝京三の稲元智監督に『あの試合が僕たちに力をつけてくれました』と言われました。大会前は『3回戦まで行ければ』というチームで、レギュラーと控えの3年生の雰囲気が悪かったそうです。それが、山梨学院との試合をきっかけに変わった。『次の日から、控え選手もレギュラーもひとつになった』と言われました」
最後の夏の大会まであとわずか。引退までのカウントダウンはもう始まっている。どんな手段を使っても、時計を巻き戻すことはできない。レギュラーにケガなどの不測の事態が起こらない限り、メンバー外の選手がユニフォームを着る可能性は少ない。
ひとりひとりの部員にとって、野球部に在籍した日々がどういう意味を持つのか、どれほど濃い時間だったかはわからない。野球人生にピリオドを打つ仲間の姿を見て、レギュラーたちは何を思ったのか。メンバー外の選手のプレーから、何かを感じ取ったはずだ。当然、「こいつらの分まで頑張らないと」と思ったことだろう。
グラウンドで戦力になれないメンバー外の選手はチームの力になれないのか? そんなことはないはずだ。試合に出る選手たちの背中を押すこと、心に火をつけることこそが彼らの仕事。「補欠の力」でチームは大きく変わる。
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