杉谷拳士が振り返る、帝京vs智辯和歌山「たった1球の敗戦投手」 (5ページ目)

  • 元永知宏●取材・文 text by Motonaga Tomohiro
  • photo by Jiji photo

――そのあと、橋本捕手のスリーランホームランが飛び出して、12対11。もうひとつ、フォアボールを出したところでピッチャー交代。監督が指名したのが杉谷選手でした。

杉谷 監督が僕を指さして「拳士、拳士、肩回せ」と言っているので「ウソだろう?」と思いました。でも、同時に「甲子園のマウンドに立てるのか。ここで抑えたらヒーローだな」とも考えました。投球練習ではいいボールを投げていたと思います。アドレナリンが出ていて、しっかりボールに指がかかっていました。でも、実際にバッターに向かうと、全然ダメでした。考えが甘かった。全力で投げたら、ピューンと抜けてデッドボール......すぐに交代です。

――たった1球だけの登板でした。杉谷選手はまたショートに戻り、打撃投手の経験しかない岡野裕也選手がマウンドに上がりました。ワンアウトはとったものの、センター前ヒットを打たれ、連続フォアボールで押し出し。帝京はまさかのサヨナラ負けを喫してしまいました。

杉谷 押し出しで負けた瞬間、『終わった~、負けた~』と思いました。悔しいというよりも、自分の責任を感じていました。最終回の表と裏でまさかの展開が続いて、「オレたち、すごい試合をしたな」とみんな感じていたでしょう。3年生も疲れ果てて、呆然としていました。2年生の中村さんと「オレたちは明日、練習ですかね?」「さすがに1日くらいは休めるだろ」と話していました。

 試合後、前田監督は3年生には優しかったのですが、中村さんと僕には厳しいお叱りがありました。「おまえらみたいな選手がいるから優勝できないんだ」と言われたことを覚えています。「おまえが中心選手になれるはずがない」とも。

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