長島三奈が感動した「ふつうの子たち、佐賀北の快進撃」 (2ページ目)

  • スポルティーバ編集部●取材・文 text by Sportiva
  • 北川鉄雄●撮影 photo by Tetsuo Kitagawa

 監督と選手のやりとりでも、微笑ましい場面に何度か、遭遇したと言う。

「試合に勝った後、通路でカメラに向かってピースをした選手がいて、それがテレビで放映されてしまった。子供の気持ちはわかりますよね? でも、もちろんこの行為は、高野連に怒られます(笑)。その後、佐賀北の百崎(敏克)監督がミーティングで話を始めたんです。『ああ、せっかく勝ったのに不穏な空気になるな』と思ったんですが、監督は『お~い、今度勝っても、ピースはダメだ。グーもパーもダメだぞ』って。選手から笑いが起きて、場が和んだですよ。もうひとつが、練習グラウンドでのシーン。帝京の内野手がグラブトスをして、華麗にダブルプレーを決めたプレイがあったんです。そうしたら、翌日のグラウンドで、彼ら、監督の前でそれをまねた練習をしているんです。ふつう、優勝も見えてきて、ピリピリしてきそうなものじゃないですか。そこで監督は『お前らのような、田舎ものにはできんできん』と。本当にのびのび。その雰囲気にびっくりしましたね」

 佐賀北は準決勝で長崎日大を3-0で破り、決勝では野村祐輔(現広島)を擁する広陵に見事な逆転勝ちを収め、優勝を飾る。大会終了後、三奈さんは取材で、高校に足を運んだ。

「行ってみると、グラウンドではなくて"校庭"なんです。ベンチなんてないし、運動会で使うようなテントがあるだけ。スペースも狭くて、時にサッカー部に占領されているような状況で。次に部室を覗いたら、夏休みのスケジュール表がまだ、貼ってあったんです。よく見ると大会期間中にバンバンスケジュールが書き込まれていました。もう、負ける前提で(笑)。選手たちも『1回、校歌が歌えたら満足』と言っていたそうです」

 そんなふつうの公立校、ふつうの選手が成し遂げた快挙。三奈さんの心に深く刻まれ、今でも心を熱くする。

「98年春夏連覇の横浜、12年春夏連覇の大阪桐蔭もすごいと思いましたが、優勝チームで気持ちを熱くしてくれたという意味では、佐賀北が一番! ふつうの子たちでも頂点に立てるんだと高校球児に希望と夢を与えてくれたチームでしたね。体格もふつうの子が多かったし、結局、このチームからプロに行った選手はいません。高校野球は、プロ注目選手がいるから強いってことではない。高校生同士の勝負なんだ、ということを教えてくれました」

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