【新車のツボ94】アバルト595コンペティツィオーネ試乗レポート (2ページ目)

  • 佐野弘宗+Sano Hiromune+●取材・文・写真 text&photo by

 これはおそらく、あえて発表するほどでもない細かい熟成と小改良、あるいは生産現場での"カイゼン"の積み重ねによるものだろう。クルマのような機械はやっぱり、アナログで繊細な技、微妙なバランスこそ、最大のツボなのだ。

 さらに"コンペティツィオーネ"と名づけられた今回の595には、"レコードモンツァ"と名づけられた専用マフラー(マニアとしてはレコルトモンツァというイタリア語読みのほうが気分である)を筆頭に、シートは"サベルト"、エンジンのエアフィルターに"BMC"......と、オッサンの涙腺を刺激する老舗パーツブランドがテンコ盛り。さらに、今回のライトグレーというボディカラーも、その横っ腹にあしらわれたストライプも、60~70年代のレーシングカーを思わせるデザインで、これまたオッサン悶絶である。

 そんでもって"レコルトモンツァ"の音といったら! キーをひねったらズーボボーッ!とエンジン始動して、ボッボッボッ......というアイドリング。低速ではブワゴゴゴーッ! 回転が上がるごとにブブブプォォォォ~!と徐々に高音に変化していく。で、変速時にスロットを緩めればドプッシャー!!

 クルマにてんで興味がなく、どんなに調律されたエンジン音もただの"騒音"にしか聞こえない人には、アバルトのセンスはハッキリいって全部が古臭い......としか思えないだろう。それは認める。でも、こうして目(デザイン)から耳(音)、触感(各部の調律)、そして青春の思い出(青春時代を思い出させるセンス)まで徹底してツボを刺激されると、オッサンはもはや悶絶を通り越して、失禁寸前。理屈や世間体はもうどうでもいい。

 現在、日本市場はアバルトにとって、イタリア本国に次ぐ世界で2番目に売れる市場だとか。これを手がけるフィアットは欧州屈指の大メーカー、それでも日本では小指の先ほども売れていないのに、アバルトは世界2位なのだ(といっても、絶対的な台数はせいぜい年間数百台程度だけど)。「クルマばなれ」とかいわれることも多い日本だが、なんのなんの、じつは世界屈指のオタクグルマ消費大国だったりもする。

【スペック】
アバルト595コンペティツィオーネ
全長×全幅×全高:3655×1625×1515mm
ホイールベース:2300mm
車両重量:1120kg
エンジン:直列4気筒DOHCターボ・1368cc
最高出力:160ps/5500rpm
最大トルク:206Nm/2000rpm
変速機:5MT
JC08モード燃費:14.5km/L
乗車定員:4名
車両本体価格:335万8800円

プロフィール

  • 佐野弘宗

    佐野弘宗 (さの・ひろむね)

    1968年生まれ。新潟県出身。自動車評論家。上智大学を卒業後、㈱ネコ・パブリッシングに入社。『Car MAGAZINE』編集部を経て、フリーに。現在、『Car MAGAZINE』『モーターファン別冊』『ENGINE』『週刊プレイボーイ』『web CG』など、専門誌・一般紙・WEBを問わず幅広く活躍中。http://monkey-pro.com/

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