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【新車のツボ59】スズキ・キザシ 試乗レポート (2ページ目)

  • 佐野弘宗+Sano Hiromune+●取材・文・写真 text&photo by

 キザシの実物を見たことない(あるいは見かけているのに気づいていない?)人も多いかもしれないが、キザシはご覧のように、昨今の欧州車以上によき時代のヨーロピアンテイストを漂わせる筋肉質で存在感のあるデザインだ。ここでも何回も書いているように、スズキは"和製欧州車?"であるところがクルマ好きのツボをそそる最大の魅力だが、キザシはまさにその象徴にして典型のデキである。さすがフラッグシップ。

 室内は同クラス競合車より狭いが、それはあえて凝縮したボディサイズと、キャビンをギュッと絞ったスポーティデザインのため。室内調度クオリティも高く、見た目は地味だが、よくいえばクルマ好きオヤジのツボを突く古典的スポーツカーを思わせる「運転したくなる」インテリアである。

 走りも素晴らしい......というか、デザイン同様に、伝統的なヨーロピアンテイスト全開。余裕のあるサイズをきちんと活かした感があって、サスペンションはボディを前後左右にゆったりと滑らかに動かして、タイヤはヒタッと路面に吸いつく。2.4リッターエンジンはけっこうパワフルなのだが、「ぜんぜん物足りない!!」と思うほどである。

 基本的な身のこなしはスイフトやスプラッシュなどの弟分たちとよく似た性格で小気味いいものだが、かといってカキカキと敏感すぎない調律がなんとも大人っぽい。他社の同クラスセダンの「実際以上に機敏に軽快に走らせる」という最近の風潮とは、いい意味で正反対。こういう"クルマ好き、欧州車好き、運転好きのツボ"をうま~く突くスズキのセンスには素直に感心する。

 デザインにしても、基本フィジカル能力にしても、そして走りの微妙な味つけにしても、キザシにはとても処女作とは思えない完成度と、スズキらしい魅力があふれる。また、クルマの商品名といえば西洋語由来のものが多いなか、"キザシ"というのはトヨタのカムリ(=冠)とならんで、数少ない日本語の車名であることもマニアにはツボだ。

 歴史に"たられば"はないが、もしリーマンショックが起こらず、最初からキザシが大々的に生産されて、スズキが社運をかけて売り出していたら......なんて、勝手に振り返っちゃっている私だが、キザシは今でも注文すれば普通に買える。300万円近い価格はスズキでは破格でも、電動本革シートまで標準装備される内容、そして超絶にレアな販売台数、あるいは「これに乗ればスズキ史の生き証人になれる!?」ことを考えると、こりゃもう出血バーゲン価格......だと私は断言してみたい。

【スペック】
スズキ・キザシ
全長×全幅×全高:4650×1820×1480mm
ホイールベース:2700mm
車両重量:1490kg
エンジン:直列4気筒DOHC・2393cc
最高出力:188ps/6500rpm
最大トルク:230Nm/4000rpm
変速機:CVT
JC08モード燃費:11.8km/L
乗車定員:5名
車両本体価格:278万7750円

著者プロフィール

  • 佐野弘宗

    佐野弘宗 (さの・ひろむね)

    1968年生まれ。新潟県出身。自動車評論家。上智大学を卒業後、㈱ネコ・パブリッシングに入社。『Car MAGAZINE』編集部を経て、フリーに。現在、『Car MAGAZINE』『モーターファン別冊』『ENGINE』『週刊プレイボーイ』『web CG』など、専門誌・一般紙・WEBを問わず幅広く活躍中。http://monkey-pro.com/

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