宮司愛海アナが見てきた内村航平選手の苦悩。心の変化を感じた「言葉」 (2ページ目)

  • 佐野隆●写真 photo by Sano Takashi

【まさかの予選落ち。東京オリンピックは「夢物語」】

 2019年。翌年の東京オリンピック(実際は1年延期)に向けてより重要度が増す1年。その初戦で、内村選手に暗雲が立ち込めます。4月、全日本選手権予選のことでした。

 予選40位(個人総合)。決勝進出を逃します。なんと2005年大会以来の予選落ち。

 あん馬では足がひっかかるミスで落下をすると、平行棒では肩の痛みに耐えきれず演技を中断。器具から降りた瞬間、記者席を含め会場にいた多くの観客からどよめきが起こりました。

 最終種目の鉄棒。どうか、鉄棒だけは......会場全体が祈る思いと緊張に包まれる中、着地の時を迎えます。止まったか、と思った次の瞬間、前へ崩れ落ちた内村選手の姿は今でもスロー映像のように、鮮明に脳内で再生されます。そのくらい、衝撃的な光景でした。

「(東京オリンピックは)夢物語ですね。今のままじゃ無理ですね。」

 見ているだけで胸が締めつけられる。ミックスゾーン(競技直後の選手にインタビューできる競技会場での取材場所)での内村選手の姿。自嘲するような表情から感じる痛々しさ。そして苦しさ。

「やる気はあるのにできない意味がわからない」

「もっと早めに地獄を見ておけばよかった」

 次々に紡がれるネガティブなことばは、これまで内村選手からは聞いたことのない類のものでした。

【嫌いになりかけた体操、立ち直った1週間】

 そこから2か月後の6月下旬。ナショナルトレーニングセンターでの公開練習で、お話を伺うことができました。全日本のショックは消化できたのか、肩の痛みは回復しているのか、ここから体操人生をどうしていくのか......不安だらけで臨んだインタビュー。内村選手はポツリポツリと、胸の内を語り出します。

「体操のことを嫌いになりかけた。どうでもよくなりかけました。」

 過去、幾度となく経験した不調とまるで次元が違う「どん底」。これまでの自分のやり方が通用せず、練習に意義を見いだせない日々を送っていたという内村選手。大会前、日本代表の水鳥寿思監督にも「今年は代表入りできないと思います」と伝えるほどだったのだそうです。

「こんな状態で演技していても、意味ないな......」

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