「不眠との戦い?」 起業の本質に触れてたじろぐ高校野球部の生徒たち (2ページ目)
【「休みは正月1日だけ」】
奥野「そうだね。由紀さんが気づいたように、いくら外部が起業しやすい環境を整えたとしても、最終的には起業家の情熱がすべてという面があるのは否めないね。
たとえば、京都にモーターなどを製造しているニデック株式会社(旧日本電産)という会社がある。創業者であり現会長の永守重信さんという方がいらっしゃるんだけど、休むのは正月の1日だけなんだ。そんな働き方はブラックだと思うかもしれないけど、起業家ってそういうものなんだよ。
彼は28歳の時に、それまでに貯めたお金をすべて投じてニデックを立ち上げた。その後も自分の才能と時間を、『回るもの・動くもの(=モーター事業)』にオール・インすることで、従業員たった4人だった会社を時価総額3.2兆円の世界的な会社に成長させたんだ。
雇われている社員が正月1日だけしか休めない会社だったら、まさにブラック企業なんだけど、永守さんは経営者であると同時に、ニデックの株主(オーナー)だからね。そもそも働かされている立場ではなくて、まさに自分事だから、圧倒的に主体的な働き方ができるんだ。もしくは人並外れた主体性を持っている人だからこそ、起業家になってしまうとも言えるかもしれないね。
その会社が提供する製品、サービスによって世の中がよくなり、売り上げが増えれば社員の生活も向上する。当然、オーナーである自分も儲かる。そのためなら『休みが何日か』なんてことは気にしていられないんだ。
もちろん、そうやって働いたからといって、全員が永守さんのようになれるわけではないし、悪戦苦闘している人たちを見て、やっかみ半分でいろいろなことを言う人はもちろんいる。『なんだ、偉そうなことを言っていても、結局は失敗するんじゃないか』とかね。起業家といえども人間だから、へこたれそうになることだってあるかもしれない。でも、成功した起業家はみな、前回紹介した『HARD THINGS~答えがない難問と困難にきみはどう立ち向かうか』(ベン・ホロウィッツ著)にも書いてあったような『不眠との戦い』を乗り越えてきたんだ」
鈴木「ああ、そこまで僕にできるのでしょうか」
由紀「そこまで自己犠牲を払ってでも突き動かされるような情熱があるってことですよね」
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