池江璃花子の2021年初戦。心の奥で炎を燃やし続け「全力で楽しむ」 (3ページ目)

  • 田坂友暁●取材・文 text by Tasaka Tomoak
  • 中村博之●写真 photo by Nakamura Hiroyuki

 上を見れば、3位に競り負けたとも言える。だが右側を向いて呼吸をする7レーンの池江には、8レーンの荒川が見えていたはず。隣で並んでいることはわかっていただろう。その状況で諦めることなく泳ぎ切るには、トレーニングに裏付けされた自信が必要だ。

 8月の復帰戦は、文字どおり復帰のためのレースだった。自分がどこまでできるのか、思うような泳ぎができるのか。何もかもが手探りだったために、池江の心は、不安と迷いで覆い尽くされていたことだろう。

 しかし、ひとつレースをこなし、インカレの参加標準記録突破という目標を達成できたことで池江は大きな変貌を遂げる。

 白血病と戦っているときも忘れることなく、自分の心の奥で小さな炎を燃やし続けた、アスリートの魂を呼び覚ますことができたのだ。

 もう、池江の心に迷いはない。目標を達成するための努力もできるし、高い緊張感のなかでも自分の力をレースで発揮できる力もある。練習すれば、自分はできる。"今までと同じように"。

 インカレのレース後、今後の課題を聞かれた池江はこう答えた。

「課題はありません。今は全力で水泳を楽しみながら、タイムを出すために頑張るだけです」

 当時の彼女にとって、課題をあえて言うならば体力作りだ。1日に予選と決勝の2回、全力で泳げる体力。筋力をつけるトレーニングをするための体力。練習を継続するための体力。質の高い練習をこなすための体力。そのためには、一に練習、二に練習、三四も練習、五も練習。ひたすら泳ぎ続けることでしか、水泳の体力を養う方法はない。

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