【水泳】松田丈志が銅メダル。「北京以来、快心のレースができた」

  • 折山淑美●取材・文 text by Oriyama Toshimi
  • photo by JMPA

試合直後は悔しさを滲ませたが、表彰式では笑顔だった試合直後は悔しさを滲ませたが、表彰式では笑顔だった 北京五輪銅メダル獲得以来、打倒マイケル・フェルプスを目標に数々の課題に取り組んできた200mバタフライの松田丈志。その仕上げとなるロンドン五輪では、7月30日の準決勝を1位通過と順調ぶりを見せた。

 この日、意識したのはフェルプスとの勝負でカギとなる後半100mの泳ぎ。そこを59秒41でカバーしたことに「後半1分を切るような練習をしてきたから予定通り」と語り、いよいよ目前に迫った対決にも、「ずっと彼と戦うつもりで練習してきたが、いざロンドン入りしてみても、不思議なことに気持ちも落ち着いているんです」と穏やかな笑みを浮かべた。

 だがこの時点ではまだ、これまでやってきた試行錯誤の中で、「これだ!」という確信のようなものは固まっていなかったという。最後の一瞬まで調整して最高の状態にしようという気持ちがあったからだ。それに加えて「絶対に最後はすべてがうまくかみ合う。五輪という舞台がそれをさせてくれるはずだ」という自信もあった。初めて銅メダルを獲得した北京五輪で、そんな経験していたからだ。

 31日の決勝当日になり、その感覚がやってきた。レース前のウォーミングアップで「今日は来たな」という思いが体の中を走った。

「直前のアップも調子が良くて、北京五輪の時と同じような感覚になったんです。『これならラスト50mで全員を交わせるんじゃないか』という感じもあって......。だからスタート台に立っても、『勝負はラスト50m』と思うだけであまり細かいことは考えず、その感覚のままで泳ごうと思ったんです」

 こう話す松田は、25m過ぎからスピードのあるフェルプスに迫り、50mは0秒18差で折り返した。100mではその差を0秒48に広げられたが、勝負の後半になるとジワジワと差を詰め始めた。ラストは激しい競り合いに持ち込んだが、結局フェルプスを追い詰められずに0秒20差でゴール(1分53秒21)。そして二人の争いに割って入った20歳のチャド・レ・クルス(南アフリカ)が最後の伸びでフェルプスを0秒05交わして1分52秒96で優勝をさらうという、予想外の決着になったのだ。

 前半の100mの入りが54秒18だと聞いた松田は、「思ったより速かったですね。その分、ラスト50mがちょっと詰まったのかもしれません」と分析した。だがその表情には、何かを悔いるような様子は浮かんでいなかった。

「そこまでしっかりと考えていたわけではないけど、優勝タイムは正直、昨日の準決勝を見る限りは僕の決勝のゴールタイムの1分53秒前半くらいだろうと予想していて、1分52秒まではいかないだろうと思っていました。でも、いろんな思いはあるけど、自分としてはいい記録だったと思います。金メダルまで0秒25差だったので悔しい気持ちはあるが、自分の中では北京以来、快心のレースができたと思うから。その点で達成感はありますね」と納得する。

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