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【箱根駅伝 名ランナー列伝】大迫傑(早稲田大) 駅伝3冠を達成した男が「世界」を目指して選んだ道 (2ページ目)

  • 酒井政人●取材・文 text by Masato Sakai

【常識を覆した4年時のアプローチ】

 ロンドン五輪イヤー(2012年)の3年時は5月に10000mで27分台に突入。6月の日本選手権10000mでは2位に入った。箱根駅伝は当日変更で3区に登場。12位でタスキを受け取る苦しい展開だったが、強い向かい風のなかを猛然と追い上げた。9人抜きでチームを3位に押し上げる。

「前を追って、順位をしっかりと押し上げることができました。区間賞がとれなかったのは悔しいですけど、最低限の走りはできたかなと思います」

 渡辺康幸監督は、大迫を1区と3区のどちらに起用するか悩んでいたというが、大迫本人は3区を志願していた。

「3区のほうが勢いに乗りやすいですし、追いかけるほうが自分を生かせると思ったんです」

 自分の能力を発揮するために、どう戦うべきか。その答えを大迫は明確に持っていた。

 4年時は米国・カーディナル招待10000mで27分38秒31をマーク。当時の日本人学生最高記録を樹立した。そして大迫は箱根駅伝に向けた常識を覆す行動に出る。

 11月下旬、さらなるレベルアップを目指して渡米。ロンドン五輪長距離2冠のモハメド・ファラー(英国)やゲーレン・ラップ(米国)らが所属していたチームで約4週間のトレーニングを積んだのだ。

 箱根駅伝直前の重要な時期に、チームを離れる。しかも大迫は主将だった。

 渡辺監督は当時、複雑な胸中を明かしている。

「箱根前の大切な時期に、という人もいて、賛否両論あったと思います。トラックで目標をクリアしましたし、僕は『駅伝でも爆走しろ』とは言えなかったですよ。大迫には強くなりたいという欲があったんです」

 自身も世界を目指した渡辺監督は、教え子の覚悟を理解していた。

「本気で世界と戦うためには突き抜けないといけません。僕も自分のなかでは突き抜けたと思っていたんですけど、僕以上に突き抜ける選手は初めてでした」

 最後の箱根駅伝では、1区5位。12月中旬に右アキレス腱を痛めた影響もあり、3度目の区間賞には届かなかった。

「区間賞は取りたかったですけど、自分が持っている力というか、現状で頑張れるだけ頑張ったので、悔いはないですね」

 それでも2区の高田康暉が区間賞を獲得するなど、チームは前年を上回る走りを見せ、総合4位。大迫は後輩たちの奮闘を喜んだ。

「チームのことを考えて走ったので、大きな財産になると思います」

 渡辺監督は主将としての役割と世界への挑戦を両立させる難しさを認めつつ、こう語っていた。

「彼は言ったことを必ずやる男ですし、日本の陸上界を考えた時に、大きく変えてくれる存在になるんじゃないかなと思っていましたね」

 その期待に応えるように、大迫は進化を続けた。

 大学卒業後は米国を拠点に活動し、2015年には5000mで13分08秒40の日本記録を樹立。翌年は日本選手権で5000mと10000mの2冠を達成し、リオ五輪に両種目で出場した。

 マラソン転向後も日本記録を2度更新し、東京五輪では6位入賞。一度は現役引退を表明したが、再び走り始めた。そして2025年12月のバレンシアマラソン。34歳の大迫は2時間04分55秒という、自身3度目の日本記録を打ち立てた。

 箱根駅伝で見せた常識にとらわれない攻めの姿勢。そして誰よりも強くなりたいという欲求。大学時代から変わらない信念が、大迫を世界へと押し上げた。そして、今なお自らの限界に挑み続けている。

●Profile
大迫傑(おおさこ・すぐる)/1991年5月23日生まれ、東京都出身。佐久長聖高(長野)―早稲田大―日清食品グループ―ナイキ・オレゴン・プロジェクト―ナイキ―東京陸協―リーニン。箱根駅伝には4年連続出場し、1年時から1区で区間賞を獲得し、史上3校目の学生駅伝3冠に貢献。2年時も2年連続1区区間賞を獲得するなど、学生界不動の長距離ランナーとして地位を確立した。早くから世界を視野に入れた競技スタイルを貫き、大学卒業2年目からプロランナーとして走り続けている。これまでトラック種目とマラソンでオリンピック出場を果たし、34歳の時には自身3度目のマラソン日本記録を更新した。

【箱根駅伝成績】
2011年(1年)1区1位・1時間02分22秒
2012年(2年)1区1位・1時間02分03秒
2013年(3年)3区2位・1時間04分44秒
2014年(4年)1区5位・1時間02分14秒

著者プロフィール

  • 酒井政人

    酒井政人 (さかい・まさと)

    1977年生まれ、愛知県出身。東農大1年時に出雲駅伝5区、箱根駅伝10区出場。大学卒業後からフリーランスのスポーツライターとして活動。現在は様々なメディアに執筆している。著書に『箱根駅伝は誰のものか』『ナイキシューズ革命 〝厚底〟が世界にかけた魔法』など。

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