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【箱根駅伝 名ランナー列伝】中村匠吾(駒澤大学) 「1区のスペシャリスト」から駒大出身初の五輪ランナーへ (2ページ目)

  • 酒井政人●取材・文 text by Sakai Masato

【最終学年の区間賞獲得で三大駅伝1区をコンプリート】

 3月末に行なわれた世界ハーフマラソン選手権には駒大のダブルエースが日本代表として揃って出場。中村は28位(1時間01分57秒)に入っている。そして最終学年(2014年度)は中村が主将としてチームを引っ張った。

 前半シーズンは調子が上がらなかったものの、秋には調子を取り戻す。出雲は台風の影響で中止となったが、全日本は4区で区間賞を獲得。駒大の4連覇に貢献した。最後の箱根は再び1区に登場する。そして驚異の粘りを見せた。

 レースは東洋大・田口雅也を軸に進み、10kmを28分51秒で通過。15kmを過ぎて、青学大・久保田和真がペースを上げる。中村は16.5km付近で遅れるも、六郷橋の上りで追いついた。今度は田口が仕掛けて、中村が再び引き離される。それでも完全に脱落せず、逆に残り1kmで鮮やかなスパートを放つ。最後は久保田、田口、明大・横手健を引き離して、1時間02分00秒で区間賞を獲得した。

「区間賞は最低ラインです。もう少し後続と差をつけて(たすきを)渡したかったですね。本来なら六郷橋で仕掛けたかったんですけど、不調の時期に走り込みが不足し、距離に対応できる脚ができていなかったように思います。最終的にはラスト1kmで仕掛けることになり、青学大に粘られたのは自分の力不足です。ただ、この1年間は苦しみましたが、4年生の意地は出せたかなと思います」

 苦しんだ主将の激走にチームメイトも奮起する。2区の村山が東洋大・服部勇馬に抜かれたが、3区の中谷圭佑が区間賞の走りで再逆転。4区のルーキー工藤有生もトップを駆け抜けた。しかし、5区に「山の神」が降臨する。駒大は青学大の神野大地に逆転を許すと、2年連続の総合2位でレースを終えた。

 中村は大学時代、悲願の「駅伝三冠」を成し遂げることができなかったが、三大駅伝のすべてで1区の区間賞に輝いた。

 大学卒業後は富士通に入社。引き続き、恩師・大八木弘明監督の指導を受けて、マラソンで活躍する。ハイライトとなったのが2019年9月、東京五輪代表選考会となったMGC(マラソングランドチャンピオンシップ)だ。

 39.5km付近からの"2段階スパート"で大迫傑を突き放す。箱根駅伝1区で見せたような強烈なラストのキック力で大注目のレースを完勝。中村は東京五輪の男子マラソン代表に選ばれて、駒大勢にとって初のオリンピアンとなった。

Profile
なかむら・しょうご/1992年9月16日生まれ、三重県出身。上野工業高(三重/現・伊賀白鳳高)―駒澤大―富士通。高校3年時に5000mで全国トップクラスの成績を残し、駒澤大に入学。大学4年間では全日本大学駅伝4連覇に貢献し、3年時には出雲駅伝、全日本で1区区間賞を獲得。箱根では2年時に3区区間3位、3年時から2年連続で1区を任され、4年時には区間賞を獲得した。卒業後は富士通で競技を続け、2021年に行なわれた東京五輪マラソン代表の座を手にした。

【箱根駅伝成績】
2013年(2年)3区3位・1時間05分55秒
2014年(3年)1区2位・1時間01分36秒
2015年(4年)1区1位・1時間02分00秒

著者プロフィール

  • 酒井政人

    酒井政人 (さかい・まさと)

    1977年生まれ、愛知県出身。東農大1年時に出雲駅伝5区、箱根駅伝10区出場。大学卒業後からフリーランスのスポーツライターとして活動。現在は様々なメディアに執筆している。著書に『箱根駅伝は誰のものか』『ナイキシューズ革命 〝厚底〟が世界にか
    けた魔法』など。

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