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【駅伝】始動1年目&少数体制でニューイヤー駅伝出場権を奪取 神野大地"監督"率いるMABPが見せた新しい景色 (3ページ目)

  • 佐藤俊●取材・文 text by Sato Shun

【独自の広報、事業戦略でファンクラブも結成】

 1区を走った山平は、実業団経験のない新卒選手だが、それでも高校や大学とは違う神野の指導にやりやすさを感じているという。

「高校、大学との単純な比較はできませんが、練習を含め、強制されないことが大きいですね。ひとりひとりのことを理解し、練習メニューも考えてつくってくださるので、練習がやりやすい。クラブハウスや食事などの環境もいいですし、先輩方はいい人ばかりで、神野さんは優しいです(笑)。MABPに来て本当によかったと思います」

 とはいえ、MABPは選手に"飴"を与えるだけではない。少数ゆえに、ひとりひとりが"走るプロ"として結果を出すことが求められる。そのため、自分に何が足りず、目標に向けて何をすべきかを常に考え、行動しないとやっていけない厳しさがある。

 練習環境のよさに加え、チームの広報、事業戦略も、他チームとは一線を画す。MABPは、「ファンに愛されるチーム」を目指している。野球やサッカー、バスケのプロチームには多くのファンがおり、チームはもちろん、競技全体を支えている。

 一方、陸上は、箱根駅伝の人気は絶大だが、実業団の陸上部はあくまで福利厚生や社内の一体感醸成の一環という位置付けで、一般のファンを獲得するための戦略はほぼない。チームを応援しようというムーブメントは起きにくい。

 だが、MABPは、チーム、そして個々の選手が、練習や合宿などの動画を軸としたSNSでの発信力を高め、競技会やレースでの応援を積極的に働きかけ、さらにファンクラブをつくるなど、独自の戦略を進めてきた。

 その結果、今回の東日本実業団駅伝にもMABP応援グッズを手にした多くのファンが駆けつけた。通常、実業団の応援は、社員や関係者、親族がメインだが、MABPはそこにファンが加わるので熱量が違う。レース後、ファンに囲まれながら行なった報告会は大いに盛り上がり、神野をはじめ、選手はサインや写真撮影を笑顔で応じていた。

 木付は、その光景を見ながら、こう語る。

「これだけ多くの人に応援してもらえるのは、実業団では考えられないこと。今回も沿道で何度も声をかけてもらって、背中を押してもらいました。僕を含め、選手全員が応援のありがたさを身に染みて感じています。これからも皆さんに応援されるチームになれるようにがんばりたいですね」

 木付は、報告会の挨拶で、まずは応援してくれたファンへの感謝を述べた。ほかの選手たちも感謝を口にしていた。こうした交流を積み重ねていった先に、チームとファンの太い絆のような関係が生まれていくのかもしれない。

 6月に難病ジストニアの手術を受け、回復途上の今回は監督業に専念した神野だが、すでに視線は次へと向いている。

「ニューイヤー駅伝の出場権獲得という目標を達成できて、自分が競技してきた時の喜びとは違う、最高の喜びを感じることができました。この激戦で出場権を獲得できたので、結果に自覚と責任を持って、ニューイヤー駅伝では最低でも30位以内を目指していきたいと思います」

 わずか10名の集団が無事にスタートラインに立ち、レースではひとつのミスも犯さず、結果を出した。この日のMABPのレース運びや結果、そして、報告会のにぎわいを見て、ほかの実業団チームの選手やスタッフは、どう思っただろうか。

 MABPの6位は、単なる予選通過にあらず。陸上界で新しい風となり、何かを起こす始まりになりそうだ。

著者プロフィール

  • 佐藤俊

    佐藤俊 (さとう・しゅん)

    1963年北海道生まれ。青山学院大学経営学部卒業後、出版社を経て1993年にフリーランスに転向。現在は陸上(駅伝)、サッカー、卓球などさまざまなスポーツや、伝統芸能など幅広い分野を取材し、雑誌、WEB、新聞などに寄稿している。「宮本恒靖 学ぶ人」(文藝春秋)、「箱根0区を駆ける者たち」(幻冬舎)、「箱根奪取」(集英社)、「箱根5区」(徳間書店)など著書多数。近著に「箱根2区」(徳間書店)。

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