國學院大・平林清澄「駅伝に勝って勝負に負けた」の真意 エースの背中が導く三冠への道 (2ページ目)

  • 杉園昌之●取材・文 text by Sugizono Masayuki

【チームを成長させたエースの背中】

 エースに全幅の信頼を置く前田監督にとっても想定外の事態となったが、太田とのデッドヒートには舌を巻いていた。

「意地と意地のぶつかり合いだったと思います。すばらしい戦いでしたね。見ていて、しびれました。ふたりとも力を出しきったと思います。ただ、アンカー(8区)の上原(琉翔、3年)でも勝負できると思って、区間配置をしていました」

 エース格の3年生は、指揮官のその期待にしっかり応えてみせた。スタート直後に青学大の背中にピタリとつくと、しばらくは様子見。思った以上にスローペースになっていることに気づき、7km過ぎの地点で沿道にいるマネジャーに確認した。

「後ろから来る3位の駒澤大とどれくらいのタイム差があるのかを聞きました。8km過ぎで、後ろからくる山川(拓馬)選手(3年)のペースがかなり速いことを知り、これは覚悟を決めていくしかないな、と。表情、汗のかき方、呼吸を見ながら仕掛けどころを探り、自分が得意とする9.5km付近のアップダウンで出ました」

 気温は20度を超えていたが、高校卒業まで沖縄で育った暑さに強い20歳には影響しなかったという。ぐんぐんと後ろから迫ってくる山川を意識しつつ、自らに言い聞かせた。

「ここで勝ちきれなければ、死んでやる」

 大きなリードを奪っていたとはいえ、最後まで独走する。アンカー勝負で負けず、自らの足で勝利をたぐり寄せた。"日本一"のフィニッシュテープを切ったときには、ほっと胸をなでおろしたという。後輩に命運を託した平林はフィニッシュ地点に移動するバスの中で結果を知り、「上原、ありがとう」とうれし涙を流していた。上原は出雲路の6区で区間賞に輝き、伊勢路でも強さを証明。次期エース候補はしみじみと話す。

「今季は"勝ちきる"ことを平林さんが、ずっと体現してくれてきたので」

 勝負にこだわるキャプテンの背中は、チームメイトの成長を促してきた。平林に「勝ちますから」と豪語する2年生の野中恒亨、入学前から切磋琢磨してきた山本はいずれも区間賞を獲得し、初制覇に貢献。同期の副キャプテンは、エースの力を認めた上で、あえて口にした。

「平林に任せきりになると、絶対に勝てない。みんな、平林を倒すくらいの気持ちを持ってやろうと、話しているんです。その姿勢が全体の底上げにつながっていると思います」

【駒大・大八木総監督も認める真の強さ】

 いまの國學院の強さは、学生三大駅伝で三冠を含む通算27勝している名伯楽も認めていた。5連覇を阻止された駒澤大の大八木弘明総監督は、どこかうれしそうな複雑な表情だった。前田監督はかつての教え子。箱根駅伝で初優勝したとき(第76回大会・2000年)の主将である。数年前まで「お前はエースをつくらないから勝てないんだ」と話していたのも、いまは昔。駒大を倒すまでに成長したチームを称えた。

「負けて悔しいんだけど、5連覇をやった(果たした)みたいな感じかな。いままで國學院は常に学生トップレベルで走れるエースがいなかったけど、前田もようやくつくった。平林が安定して走れば、いいチームになってくる。周りの選手は、エースについていくものなんですよ。そうしたら、全体のレベルもどんどん上がっていきます。私が三冠をやっているので、前田もやりたいと思うけど、『あまり欲張りすぎるなよ』と伝えたいですね」

 マラソン日本学生記録を持つ絶対的なエース・平林にけん引されたチームは、いま最も充実している。残すところは、箱根駅伝のみ。前田監督は「大八木さんの言わんとすることはわかります」と笑って頷いていた。

 いよいよ箱根駅伝。したたかに初の総合優勝、そして史上6校目の三冠を狙う。

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