鈴木雄介、金獲得の裏に恐怖心「どんなペースなら最後まで行けるか」 (2ページ目)

  • 折山淑美●取材・文・写真 text&photo by Oriyama Toshimi(人物)
  • photo by Nakamura Hiroyuki(競技)

 20kmだとレース中でも、優勝するための戦略を考えているのが普通だ。だが鈴木は、この暑い中で、頭を使うことでエネルギーを消費するのは無駄だと思い、距離やペースなどは何も考えないでレースに臨んだ。スタート時は気温31度で湿度74%という条件。最初の1kmは流れに身を任せて4分57秒で入ると、誰もついてこず、最初から独歩になる予想外の展開になった。

「(レースは)ドーハに入って、すぐに経験した最悪の蒸し暑さに比べれば『少し涼しいかな』と思える条件で、最初はすごく気持ちを落ち着かせていったつもりでしたが、みんながついてこないので『どうしたのかな?』と思って。後ろのペースに合わせようかと一瞬考えましたが、逆に自分が楽かなと思っているペースで周りが離れてくれるんだったら、それはそれでラッキーと考えて、そのままの感覚で行くことを決めました。

 ただ、自分の気持ちいいペースというだけだったら、もう少し速くなったと思うし、絶対に最後まで体力が持たなかったと思う。でもその時に、冷静に自分の心拍数を見て基準にできたのがよかった。普通のレース序盤は155くらいが理想ですが、(今回は)楽に行っているつもりでも165になっていたんです。少し自重しなければいけないなと思ったのですが、なんとか耐えられるギリギリのラインでしたし、下手に下げるよりはこのままのリズムでいった方がいいのではないかと自分で判断しました」

 レースはしっかり見えていた。9kmを過ぎてディニが追いついてきても、「これは50kmまで持たない歩き方だ」と判断して気にならなかった。もうひとり、2位集団につけていた、世界選手権と五輪で優勝した実績もあるマティヤ・トート(スロバキア)も、しっかり自分のペースを刻んでくるだろうと警戒していたが、20kmを過ぎると集団から落ちていった。

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